下村敦史「同姓同名」

「白衣」に続き、下村作品「同姓同名」読了。

試しにFacebookで私の名前(柳澤修)で同姓同名の方を検索したところ、自分を含めて19人が検出されました。Facebookをやられていない方を含めれば、全国に同姓同名の方が数倍~数十倍いることになります。姓が佐藤さんや鈴木さんだったら、さらに多くの同姓同名の方がいるのでしょう。ちなみに本書での同姓同名「大山正紀」さんはFacebookでは5名と、意外に少ない数でした。

さて、本書は16歳の大山正紀が6歳の少女を刃物でめった刺しし、週刊誌が少年にもかかわらず実名を公開したことから、同姓同名の「大山正紀」さんが、同姓同名がゆえに人生を狂わされたことを嘆き、犯人が7年後に出所したのを受けて「同姓同名被害者の会」を立ち上げ、それぞれの被害を訴え、犯人を探し出そうと動き出す中で、事件の真相に近づいていくさまを描く。

登場する大山正紀さんは、高3のサッカー有望選手が、大学推薦を同姓同名がゆえに受けられなかった正紀さん、コンビニアルバイト時に事件があり、同姓同名がゆえに好意を寄せていた同僚店員の彼女に冷たくされてしまった男性、この男性は就活もうまくいかず、ようやく就職した小さなブラック企業のような会社でも、パワハラを受ける。彼が被害者の会を立ち上げる。中学生の正紀君は、少女系漫画の絵を描いているのが、同じクラスの女子にいじめられる対象になり、他クラスに同姓同名の男子生徒がおり、その生徒からもからかわれる。この中学生だった二人の同姓同名が最終盤で大きな役割を果たすことになるのだが、何しろ大山、正紀さんがそこら中に出てくるため、誰がどの大山さんか分からなくなるぐらいなのですが、下村作品はその点、分かり易い表現をしてくれるので助かります。

被害者の会では二回目のオフ会から新聞記者が加わり、本物=殺人を犯した大山正紀を突き止めようと決まり、次第に本物に近づいていくのですが、途中には家庭教師をしていた正紀さんが襲われたり、その家庭教師の正紀さんが、実はかつて幼女にいたずらをしたことで逮捕されたが、めった刺し事件があったおかげで、同姓同名としての被害が軽減した恩恵まで受けるなど、エピソードもふんだん。一番切実なのは、被害者の会の一人、団子っ鼻の正紀さんは、顧客営業で上司が名前をギャグ風に言って、顧客からシャットアウトをつきつけられるなど、深刻なエピソードもある。

彼らは同姓同名によってマイナスの人生を歩まされたという被害者ではあるが、本当にそれは本人の能力・特性があったにもかかわらず被害を受けたのか、それとも同姓同名を言い訳にして逃げてきた結果なのか。本書で学ぶべきは言い訳人生では道は開けないということではないか。

さて、本書ではエピローグでめった刺しの犯人が誰であったかが、本人の言葉で語られる。これこそが大どんでん返し。先に記した中学生二人の正紀さんがいつの間にか逆転してしまうが、かといってこの展開に何ら齟齬があるわけではなく、見事なトリックを仕込んだものだと、つくづく感心した次第。

未だ私は同姓同名の犯罪者からのこうした被害は受けたことがないが、かつて中学生のころ、大久保清事件があり、同級生で全く同じではないものの漢字で一字違いの人がいました。割と仲が良かったのですが、冗談で「大久保清」と呼んでいたことがあります。彼がどう思ったか、確認していませんが、もしかしたら被害者意識を感じたかもしれないと思うと、申し訳なかったと思う次第。

今はNETの時代で、ちょっとした言動がフェイクニュースとなり拡散する時代。無責任なNET情報にたやすく乗らないようにすべき時代です。

本書はそういう意味で、大変に参考になり、エンタメとしても大変楽しめました。

今日はこの辺で。