天童荒田「迷子のままで」

長い年末年始の休みも残り3日、年越しで読んだ新年初めて小説は、天童荒田「迷子のままで」

天童さんの小説は、直木賞作の「悼む人」に代表されるように、表現が適切ではないかもしれませんが、人間の良心を暗く描くような作品が目立ちます。本書も例も漏れず、暗い印象ながら、人間としてどうやって生きるのが正解なのか、両親とはどういう振る舞いなのかを問うています。

本書に収められた作品は2編で、表題作の「迷子のままで」と「今から帰ります」。

「迷子のままで」は、シングルマザーと同棲している若い男、ドライバーの勇輔が主人公。結婚を前提にシングルマザーと同棲しているものの、幼い子供がなつかずイライラが募り、つい手を挙げてしまう。そんな彼もかつて結婚していて、子供まで作ったが、今は離婚している身。そのことは同棲相手にも話していない状態。

そんな彼が、別れた妻の新しい夫が子供に暴力をふるって死なせてしまう事件があり、勇輔が実施をなくしたことに対してメディアの取材を受けることに。雄輔と別れた妻は、いずれも若くして子供ができ、勇輔が逃げてしまった口。別れた妻は、育児に非協力的な今の夫に暴力を振るわれ、逃げる場所のない生活。・・・・・、最近ある親による虐待事件をモチーフにしているかのようなストーリー。結局勇輔は自分に子供を育てる資格がないことを悟り、結婚せずに去るしかないことを認識する。子育ての大変さを、重要さを教えてくれますが、シングルマザーが増え、その多くが貧困家庭であることが社会問題となっている昨今、自助では済まない現実があります。

「今から帰ります」は、福島で除染作業をする人たちが主人公。映画好きな青年は、会社を辞めて映画資金を得るために、危険な除染作業に加わる。その仕事の仲間は、ヘイトの標的になっている在日のリーさんや、ベトナム人実習生のヴァンさん、映画作りの仲間の小五などなど。震災で親や兄弟親戚を失った人への痛みを感じるとともに、「騙されること」の罪について教えてくれます。「原発安全神話」に騙されてきたと言って政府や電力会社を責めることで、自分たちは騙されてきた被害者を強調するのではなく、それを鵜のみにして、何ら疑うことなく騙されてきた罪まで問います。如何に大きな権力に騙されずに生きていくかは、戦争責任に通じる話でもあり、国民主権の今日にあっては、余計に選挙民は騙されていることに気づく感覚が必要なのではないかと痛感した次第。

今日はこの辺で。