池井戸潤「BT’63」、「鉄の骨」

池井戸潤「BT’63」と「鉄の骨」読了。
「BT’63」は上下巻800ページ以上の長編作で、躊躇していましたが、その読みやすさとストーリーの面白さに、難なく読み終えた次第。
現代に生きる大間木琢磨と彼の亡き父史郎のW主人公の、過去と未来を巧みに描きます。琢磨は精神の病で会社を辞め、妻とも離婚して職探し中。そんな中、父親の遺品の中から車のキーを見つけ、それの効力で過去の父親の行動に出合います。彼の父親は、運送会社の経理・総務を任された仕事のできる人間。運送会社の景気が良くないことから、宅配事業のアイディアを思いつき、その事業化に奔走する姿を、現代に生きる琢磨が夢の中で見続ける巧みな構成。父親の史郎は、自分の補助役として雇ったシングルマザーの女性と同居するが、その女性もまた暴力的な夫の影におびえる。さらには運転手の中の犯罪に手を貸す男たちや銀行員との交錯など複雑に絡み合って苦労する姿が描かれ、現代の琢磨もまた、父親の足跡を追って、署名にある「BT’63」というトラックを探す物語が同時進行して語られる。「バック・ツー・ザ・フューチャー」的なSFチックな作品でもありますが、それを感じさせない現実味があり、車を探し当て、父親の人生の重要部分を見た琢磨の今後を期待させる最後でした。
「鉄の骨」もまた650ページの大作。建設業界で亡くならない談合を扱った物語。
中堅ゼネコンに入社した入社4年目の富島平太は、入社以来建設現場の技術者として過ごしてきた社員。そんな彼が突然に本社の業務課と言われる部署に配属となる。この課は、公共工事の受注調整を行う通称談合課。何ゆえに自分がこんな部署に異動になったかもわからず、必要悪と認識して受注活動を行う。そんな彼を、談合の元締めと言われる三橋という大手ゼネコン顧問に引合され、との地下鉄工事の調整にかかわることになる。
談合がなかなかなくならない現実、役所の入札方式の不備など、池井戸さんもかなり勉強した節もあり、よく実態を描いていますが、平太クラスの入社間もない人間を危険な談合の担当者にさせることが実際にあるのか、確かに常務の最初からの計算通りと言えばそれまでですが、若干人物配置が雑な気がしました。やはり池井戸さんは中小企業が大銀行や大会社を相手に奮闘する物語が一番得意かもしれまっせん。
今日はこの辺で。