奥田英朗「リバー」

奥田さんが足利事件をモデルにして書いた大作ミステリー「リバー」読了。何せ650Pの大作であり、最初読むのを躊躇したが、読みやすい作家なのでとにかく読み始め、その通り読みやすかったため実質3日間で読了。足利事件は典型的な冤罪事件として、再審無罪となったため、本作も冤罪をテーマとしているかのようなストーリーの運びだったが、最後はそれがはっきりなないまま終了となり、若干腰砕けの感あり。

舞台は群馬・栃木の県境を流れる渡良瀬川周辺の街。足利事件では被害者が幼女で、渡良瀬川に死体が放置されていた事件ですが、本作では20歳前後の若い女性が被害者。10年前に発生した二つの殺人事件と同じような女性全裸死体が渡良瀬川の群馬側の桐生と、栃木側の足利の渡良瀬川河川敷で発見され、両県警は10年の時を超えた事件を同一人物の仕業と見立てて共同捜査本部を立ち上げ捜査する。本作で最も捜査で活躍するのは、10年前の事件で娘が殺された父親と、真犯人と確信したものの証拠不十分で起訴に至らなかった元刑事。この二人の提供した情報によって警察は事件の真相に迫るという展開で、まるで奥田さんが足利事件の冤罪、その結果真犯人を捕まえることができなかった警察の無様な姿を際立てるような意図を感じるほど。各県警の刑事はそれなりに動いてはいるが、何以下空回りするばかりで、結局冤罪を生んでしまうのかという予測を途中で感じる。案の定、証拠が不十分の段階で検察は起訴できず、またもや警察の失態が浮き彫りに。ところが第三の事件が発生して、事態は急展開。防犯カメラ映像に被疑者とされる3人のうち、2人がが同乗している証拠が見つかったのだ。今まで正体を見せなかった被疑者がいとも簡単に同乗するという展開は腰砕けだが、多重人格症である一人の供述がいとも簡単に得られてしまう。ほぼ真犯人が決まりという状態。

しかし、奥田さんが最後に仕掛けたのは、もう一人の被疑者の存在。10年前の事件の犯人として元刑事が追いかけていた被疑者に対して、元刑事が10年前に事件をやったのはお前かと聞いて、1件目は自分だと答える。今回の事件はどうかと聞くところで、その男が手下に殴られて言葉はストップ。奥田さんはやはり冤罪の可能性を残したのか?真犯人として警察が逮捕した男は、確かに10年前も同じ工場の期間工として働いており、10年後の今、また舞い戻って期間工として働く身。しかし彼は、身障者である妹を毎月施設に尋ねて可愛がる身であり、恋人にも自分はやっていないと言っているのだ。そんな人間に凶悪犯罪ができるのか?読者は彼の冤罪を期待した部分が少なからずあると思うのですが、奥田さんは結論を書いていない。それが残念で仕方がない。

今日はこの辺で。