窪美澄「夜に星を放つ」

窪美澄さんが直木賞を受賞した記念すべき作品「夜に星を放つ」読了。「ふがいない僕は空を見た」と同じように、5編からなる短編ですが、本作は一作一作が全く別の話で構成された作品。ただし、両作品は何となく似通った作風で、こうした短編が窪さんの真骨頂かもしれません。

1.真夜中ののアボガド:私こと綾さんは、マッチングアプリで知り合った麻生さんが好きになるが、麻生さんは一線を超えることに躊躇がある。そんな麻生さんに綾さんは、自分には双子の妹がいて亡くなったことを話す。麻生さんも、自分には秘密があるがそのうち話すという。そんなある日、彩は電車の中で麻生が女性と子供と一緒にいるところを目撃。麻生は既婚者だったのだ。ショックで綾さんは亡くなった妹の恋人だった村瀬さんのところに行き抱きつくが、村瀬はそれを拒否。彼は妹がまだ忘れられないのだ。特に姿かたちの同じ自分は、村瀬にとって妹と同じ存在になってしまい、一生忘れられなくなってしまう事を綾は悟る。アボガドは綾が種から育てていて、成長してきている。

2.銀紙色のアンタレス:真は高校生で海が大好き。夏休みになり、早速海辺に住む母方のばあちゃんのところに来て海を満喫。浜辺で子供を抱いている女性と出会い、それがばあちゃんの臨家の孫だと知る。真はその娘さんに恋心を抱く。ばあちゃんが熱中症で倒れ、右往左往しているところで、その娘さんが救急車を呼んでくれたりして、更にあこがれを抱くようになるが、娘さんの夫が迎えに来て別れが来る。最後に真は勇気を奮って好きですというのだった。

3.真珠星スピカ:私ことみちるさんは、母が亡くなり、父と二人暮らし。父の仕事の関係で天候が繰り返され、その都度いじめの対象となってきた。今の中学校でも転校早々いじめにあい、保健室で授業を受ける身。学校ではこっくりさんゲームが流行っていて、いじめっ子たちがみちるさんを呼び出しこっくりさんをやり始める。すると不思議な現象が発生。10円玉が勝手に動いていじめっ子グループは驚き、一人は不登校に。結果、みちるさんへのいじめはなくなる。母さんに助けられた私でした。

4.湿りの海:沢渡は妻と離婚し娘は妻が引き取る。離婚は妻の浮気が原因で、沢渡には何の落ち度もなかった。妻と娘は外国人と一緒にアメリ以下のアリゾナに住む。沢渡は毎週日曜日に娘とパソコンを通して面会する。そんな沢渡のマンションの隣にシングルマザーの女性と娘が転居してくる。沢渡は親切心を出して二人と一緒に海に行ったりする。しかし、相手の彼女はいつも育児疲れ気味で、虐待行為もしているかもしれない。結局親子はいなくなってしまい、沢渡は空虚感を味わう。

5.星の随に:僕こと想君は両親が離婚して、父親と暮らしていたが、父親が渚山という若い女性と再婚して、男の子も生まれる。子供は夜泣きが激しく渚さんは昼間に寝るようになる。その間マンションの鍵をかけられてしまい、僕は部屋に入れず、同じマンションのおばあさんの部屋で休ませてもらうようになる。そんな事情を僕は誰にも話さなかったが、おばあさんが話してくれて、父親も知ることになり、渚さん子供はしばらく実家に帰ることになる。僕は決して渚さんを恨んでいたわけでもなく、みんなが好きだったと父親に訴えるのでした。

窪美澄さんは既に相当の作品を出していて、直木賞にも何回かノミネートていたのですが本作で受賞したことはよかったのですが、私はこの作品が受賞するなら、一穂ミチさんの「スモールワールズ」が受賞しても何らおかしいところはないと感じた次第。審査員各位の好みが左右するということでしょう。

今日はこの辺で。