北村薫「鷺と雪」

北村薫直木賞受賞作「鷺と雪」読了。表題作含む三作の連作小説。
高等女学校を卒業間じかの華族のお嬢様である「私」=花村英子を主人公に、太平洋戦争前の東京の上流階級の暮らしがよく分かるような描写が多く出てきます。
華族の序列、「公侯伯子男」のうち、私は子爵の娘。それでも運転手付きで学校に通うというから、今では考えられないような待遇。そんな華族社会の中で3つの物語が語られます。
「不在の父」は、そんな家族社会になじめずに、自らホームレスのような生活を選んだ学者家族の話。最後は何とも非業の死を遂げてしまう悲しい物語。
「獅子と地下鉄」は、現代と同じように戦前でもあったという受験地獄の一端を題材とした作品。三越本店の獅子にまたがると受験に合格するという伝説があるようですが、同じように上野と浅草の獅子にまたがろうとした受験少年の話。どの時代にも受験地獄はあったんですねえ。
表題作「鷺と雪」は226事件をにおわしながら、男女の恋愛の当時の難しさのようなものを感じさせる作品。戦争を進めようとする軍部や財界の思惑に振り回されてしまう若き将校。彼らの全部が全て戦争を推進しようとしたのではないことを、作者は強烈に訴えたかったのでしょう。
今日はこの辺で。