藤沢周平「長門守の陰謀」

藤沢周平長門守の陰謀」読了。表題作含め5編の短編。どれもきわめて優れた作品。
特に私が気に入ったのは「夢ぞ見し」。昌江は器量よしの人妻ながら、結婚して5年たっても子供が出来ない。亭主は何の取り柄もないような下級武士。毎日遅くまで仕事をして、帰ってくるのがいつも遅い。そんな生活に若干不満を持つが、あるとき、亭主の江戸詰め時代の友人が居候し、尊大ながら男前で気前のよさそうなその年下の男に魅かれる。そんなあるとき、その男が何者かに襲われるが、そこに現れたのが実は剣術の達人の逞しい亭主。最後はハッピーエンドの味のある作品。
「春の雪」は、年頃のみさと、幼馴染で何事にも気の効く作次郎と、同じく幼馴染でちょっと鈍い茂太。みさは、作次郎と一緒になるのを夢見ているが、あるときいやな男に無理やり付きあわせられようとした時に助けてくれた茂太。みさは茂太の気持ちを理解し、かなえてやることに。
「夕べの光」は、亭主に死なれ、土方仕事をしながら自分の本当の子供ではない6歳の子供の面倒を見ているおりんの話。おりんに縁談が持ち上がり、その気になるものの、その男は結局子供を引き取る気持ちがないことを知って・・・。気風のいい女おりんに憧れます。
「遠い少女」は表店を持つまでに成功した鶴蔵が、かつて憧れた女と再会し、自分の妾にしようとするが、実は騙されていた・・・。現代でもよくある話。何人も詐欺で男を騙し、4人の男を保険金目的に殺しているかもしれない女の記事が、今日も新聞に出ていましたが。
表題作「長門守の陰謀」は、庄内藩を我が物にしようとした殿様の弟の陰謀。実話らしいのですが、小説の面白みとしては、前4作に劣る気もします。
藤沢周平の現代に通じる歴史小説の巧みさに感服。
今日はこの辺で。