五ノ井里奈「声をあげて」

2020年4月、自衛隊に入隊した女性、五ノ井里奈さんが、6月までの前期教育を終えて配属された郡山駐屯地で受けたセクハラを“声をあげて”訴えた経緯を綴ったノンフィクション「声をあげて」読了。

自衛隊という男社会、階級社会では、一般企業のようなセクハラ、パワハラに対するコンプライアンスが決定的に欠けており、セクハラを訓練の一種とみなしていた古い体質に、通常であればとても声をあげることは困難な中、勇気をもって実際のされたことを、決して嘘・誇張することなく職場の上司や上層部に訴え、その訴えもかき消されたことから、SNSを使って“顔と名前”を出して世間に訴えた勇気は並大抵なことではないと想像されるが、それをやってのけることによって、自衛隊にある意味“希望の光”を灯したと言えるのではないか。

彼女は小学生の時3.11大震災を東松島市で経験し、その時にやってきた自衛隊員の姿にあこがれ、かつ、子供の頃から柔道に親しみ相当の実力もあったので、更に腕を磨くという夢を抱いて自衛隊に入隊。それがたった半年でセクハラの恐怖によって奪われることに。周り、特に上司に相談してもらちが明かず、徹底的に加害者と争うことを選択。当然加害者と名指しされた人たちは口裏を合わせ、事実を否定し、彼女の証言だけが証拠となる。したがって、検察までもが不起訴処分にするが、これも想定してSNS(ユーチューブ)で被害の実態を拡散させるという非常手段をとるところは極めてクレバーで現代的。この結果世間の注目を浴びて、名指しされた4人から直接の謝罪を受けるところまで到達。自衛隊防衛省も、対象者を懲戒免職処分を含めて、かなり厳しい処分を行わざるを得ない状況に追い込むところは痛快である。

刑事裁判では、当初は検察が不起訴としたが、検察審査会が不起訴不当とし、本書では描かれないが、今月12日に強制わいせつ罪で3人が懲役2年、執行猶予3年の判決を受ける。もし五ノ井さんが声をあげなければ、そのまま自衛隊の体質は変わることがなかったかもしれないが、これだけの刑事処分を受けたことから、女性自衛官にとっての希望の光になったのではないか。男社会・階級社会を変えることに貢献した彼女の勇気にあっぱれを送りたい。

今日はこの辺で。