伊兼源太郎「事件持ち」

警察、検察小説に定評のある伊兼源太郎氏の「事件持ち」読了。本作における「事件持ち」とは、大事件にあう確率が高い新聞記者と刑事のこと。

主人公は新聞記者2年目の永尾哲平と、中堅刑事の津崎庸介。永尾は2年目ながらいまだに警察周り担当で、独材=特ダネがない記者で、デスクからは嫌味を言われる身。そんな永尾がキャッチした殺人事件。彼は独材をとるべく聞き込みをはじめ、被害者の中学時代の同級生を当日に聞き込みを行う。彼が事件に関係していることには全く気付いていない。

一方津崎は、永尾が聞き込みした同級生を聞き込みしなかったことを管理官から責められ、事件の解決にプレッシャーを受ける。永尾と津崎は、いずれも思慮深い性格で優秀ながら、負い目があり、自分の存在感や職務について思い悩む姿が描かれる。永尾が聞き込みをした被害者の同級生である魚住が、その後姿を消し、隣の警察署管内であった別の殺人事件の被害者も同級生と分かり、連続殺人事件とみなされ、がぜん魚住犯人説が警察内で持ち上がり、それを追いかける永尾の新聞社内の確執や、津崎周辺の動きなど、伊兼氏独特の筆致で事件の展開が語られる。永尾は、被害者の母親から飛び切りの情報を得て、独材をとり、同時に新聞記者のやるべきことの意味を理解する。そんな永尾に接して津崎も刺激を受け、この事件に潜む裏の中心人物に迫っていく。

ついに津崎は犯人が現れる場所を推定し、永尾は津崎の追いかけ、魚住と彼の同級生を捉える。誰が犯人なのか?本命と言われた魚住ではなく、津崎が絞り込んだ犯人は表れた3人の中にいたのだが、永尾はこの時点では犯人を特定できない。津崎は朝刊に出さないことを要請。永尾は了承する。永尾が考えていた人間はやはり犯人ではなく、津崎は真犯人を取調室で追い詰め完結。

永尾と津崎、いずれもこの事件でそれぞれの職務を完結し、人間的な成長を遂げた。

伊兼節絶好調の警察小説でありました。

今日はこの辺で。