永井みみ「ミシンと金魚」

現役のケアマネージャーで、自分の介護経験も踏まえて書いた永井みみさんの「ミシンと金魚」読了。本作ですばる文学賞を受賞し、絶賛された作品。忙しいケアマネージャーの仕事をしながら、著作を書くことは大変でしょうが、こうしたいい作品を書かれたのも、永井さんが本好きで、かつ仕事にも情熱をもって生きているからではないかと推測。

本作の主人公カケイさんは、年齢不詳ながら自宅で一人暮らし。、訪問介護を受けたりデイサービスに行ったりしているお婆さん。そして複数の介護士「みっちゃん」。

カケイさんは認知症が現れているが、過去のことはよく覚えている方。そのカケイさんがみっちゃんたちに自分の波乱万丈な人生を語る形で展開。

子供のころのカケイさんは、父親が箱職人をしていて、母には暴力をふるい、母はそれが原因で鼓膜が破れ、半分失明もするようなひどい父親。母はカケイさんを生んですぐに亡くなり、継母がすぐに来て、その継母からカケイさんとカケイさんの兄は暴力を振るわれ、学校にはほとんど通えなかった。でもカケイさんはなかなか頭がよく、新聞を読むために字が読めるように、字だけは独学して読めるようになり、更には手に職をつけるために、ミシンを一生懸命に覚えて一生の職にしていく。最初は職場の親方に他の人より働いているにもかかわらず、低賃金で働かされ、カケイさんが考案したもので親方は設けていたにもかかわらず、カケイさんには何も恩恵がない有様。

カケイさんは役所勤めの人と結婚するが、夫は子供を残してどこかへ出奔。実子の健一郎は自殺する悲劇にあう。健一郎の妻が定期的にカケイの介護に訪れているが、その嫁はカケイさんの財産を狙っているのは現在のこと、

さかのぼって、カケイさんはもう一人子供を身ごもり、兄に反対されながらも、便所で産むという、ウルトラCも見せる。広瀬さんという兄の奥さんに助けられて、産後を過ごし、カケイさんの兄貴は自分の子供の様にかわいがる。その子の名が道子。そして残念ながら3歳の時に病気で亡くなり、カケイさんは自分がミシンに集中し過ぎていたから道子が死んだという後悔にさいなまれる。その為、頭の中はずーっとみっちゃんなのである。

カケイさんは老い先短いことを悟り、少ないながら貯金をみっちゃんたちに残す遺言書を書く。そしてその最後の時がやってくる。そこにはやはり死んだみっちゃんが三途の川で待っているような気がしてくるのでありました。

介護士でなくては書けないような描写もあり、波乱万丈ながら、極めて堅実に生きたカケイさんは、決して不幸な人生ではなかったのではないかという読後感でした。

今日はこの辺で。