安生正「不屈の達磨」

 

安生正氏は京都大学大学院工学系卒で、現役の建設会社社員とのこと。既に60歳を超えているので第一線は退いているのでしょうが、2012年の「このミス」大賞を受賞した「生存者ゼロ」執筆当時は、まだまだバリバリの現役だったと想像されます。次回は「生存者ゼロ」を読んでみたくなりました。

話はそれましたが、その安生氏が昨年2022年に発表した、いかにも会社員らしいミステリー的要素を含む経済小説「不屈の達磨  社長の椅子は誰のもの」読了。

主人公は再生可能エネルギーなどの電力開発会社の秘書室長、弓波博之53歳。彼は2年前に副社長に不正行為を依頼されたものの、それを断ったことから、九州支店に左遷されていた社員。弓波は社長からは信頼されていた人材で、2年後には社長から呼び戻され、秘書室長に就く。赴任早々、週刊誌に社長のスキャンダル的報道が掲載され、社長が姿を消し、退任の意思が伝えられる。ときは5月中旬で、6月の株主総会を控えた繁忙期。次期社長候補である副社長と常務の権力争いが激烈化。弓波は社長の行方不明への対応や、両社長候補からの無理な命令など、理不尽な上層部への怒りが鬱積する。一方で、彼が知らない間に、直属上司である管理本部長が経産省や銀行と社長候補選びが潜行していたことが臨時取締役会で明らかになり、次期社長が役人OBであることが承認される。二人の社長候補はいずれも社を追われる形で退任。会社の情報が漏洩していることも判明し、弓波は株主総会を乗り切るために粉骨砕身するのでありました。

株主総会の締めの部分は、結局弓波の努力だけでは収まらず、ちょっとした偶然がファンドの企みを打ち崩すので、若干拍子抜けする部分はありましたが、経済用語の説明も出てきて、為になる作品ではありました。

今日はこの辺で。