薬丸岳「告解」

薬丸岳の2020年の比較的新しい作品「告解」を2日間で読了。大学生が飲酒運転の末ひき逃げ事故を起こし、懲役刑判決。大学生の親は離婚、姉は婚約が破談になるという、運転免許更新時の講習で見せられるビデオのような典型的な加害者家族の崩壊を描く一方、被害者は高齢老人ながら、家族に愛され、加害者の虚偽と思われる供述に憤りを覚えながら、残された高齢の夫の異常とも思える行動に危惧を覚える姿を描いていく。

有名大学に通学する大学生、籬翔太は、ある晩アルバイト仲間と居酒屋で飲酒。帰宅すると恋人からすぐに会いたいとのメールがあり、雨天かつ飲酒した中で車を運転、途中信号無視して高齢女性を撥ね、自分の将来や家族のことを考えて、恐怖を抱きひき逃げる。だが、そんな甘い考えは通用するはずがなく、すぐに逮捕され、犬か猫だと思った、信号は青だったと嘘の供述で言い訳するが、そんな嘘は通じる筈がなく、5年近い懲役刑を受ける。そして予想通り、出所後の就職は困難を極め、日雇い派遣で食いつなぐ日々。親は離婚して、特に父親は教育評論家としての地位と名誉も失い、酒に浸る日々。母は遠く熊本の実家で、経済的にも苦しい生活。結局頼れるのは自分だけだが、就職が困難な状態では全く将来が見通せない。久しぶりに会った大学の仲間には敬遠される始末。犯罪加害者の社会復帰がいかに難しいかが切々と語られます。一方の被害者の夫である法輪二三久は、探偵事務所に籬の動向を調査させ、籬の住む古いアパートに引っ越して籬への接近を図る。そして二人の対決が!

籬は法輪をひたすら恐れ、法輪は籬の罪に対する贖罪意識を観察するとともに、かつて自分が戦時中に起こした民間人を殺害した罪などの贖罪を求めていたのであった。

籬の出所後の厳しい社会の目に対する行動が、バイト仲間、前田の悪い誘いに乗ることなく、真っ当に生きていく道を選択し、更には法輪からの最後の言葉で、これから屈託なく「笑える」人間になることの重要さを認識するところに、この作品の真髄があるのではないかと思った次第。籬にとって、彼を思ってくれる綾香の存在が極めて貴重で大きな存在でもあった。

今日はこの辺で。