中山七里「ネメシスの使者」

中山先生が刑事司法制度問題、特に重罪事件の犯罪加害者・被害者家族がその判決で苦悩する姿を描いた作品「ネメシスの使者」読了。

死刑制度の賛否については、日本では圧倒的に制度存続賛成派が80%と言われるほど、世界の他国とはかけ離れ、当分死刑制度廃止の議論は起こりそうもない状況ですが、冤罪で死刑判決が出され、それが執行された場合には、取り返しがつかないことを考えると、非常に難しい問題。数日前にも、飯塚事件で既に死刑が執行されてしまった久間三千年さんの再審請求審421日に却下されましたが、冤罪の可能性が極めて高い事件であり、恐ろしいことです。

本作の主人公は埼玉県警の渡瀬警部ですが、中山作品の常連さんも何人か出てきて多彩な顔触れ。

それぞれ二人の罪のない人を殺したにもかかわらず、“温情判事”の判断で死刑を免れた二人の懲役囚のそれぞれの家族が殺される事件が発生。犯罪現場には「ネメシス」の文字が残される。ネメシスとは復讐の女神のことであり、死刑を望んでいた被害者家族周辺の人物が犯人ではないかと渡瀬をはじめ警察は捜査を開始するがなかなか特定できない。法務当局は、復讐が賛美されかねない風潮を気にして早期収束を図るべく犯人に注力するが、実は犯人は意外なところにいた・・・・。中山先生独特の最後のどんでん返しが用意もされており、エンタメ作品として十分に楽しめるが、温情判事こと渋沢判事の言葉が印象的。その要約は「死刑は一瞬の恐怖や苦しみだが、懲役刑は長期間にわたり犯罪者を内側から殺していく刑罰。人間性をぼろぼろにする苦しみを長期にわたり課すものである。死刑で死んだとしても、遺族の怨念が晴れるものではない。死んでしまえば受刑者自身の苦しみもそこで停止する」。死刑よりも懲役刑の方が犯人には重い刑罰なのだという趣旨。

これには賛否があるでしょうが、重い言葉ではあります。

今日はこの辺で。