薬丸岳「誓約」

薬丸岳の2015年の作品で、殺人を誓約させられた男の苦悩と、犯人探しを描く「誓約」読了。

向井聡は、川越で落合という男と共同でバーを営むバーテンダー。落合から熱心に誘われて16年前に共同経営という形で店を開き、今はバイトで男女二人を雇って、そこそこ繁盛している。そんな向井に、坂本伸子という女性から手紙が届く。実は向井には若い頃かなり無鉄砲に犯罪を犯したり、賭け事で借金したりという暗い過去があり、死まで覚悟したときに、坂本伸子という女性から500万円を借りる代わりに、ある嘱託殺人を頼まれたことがあった。向井聡という名は別人の名前を買ったもので、かつ顔のあざも整形で亡くして別人になっていたのであった。坂本伸子の娘さんが二人の若者に暴行されて殺されたが、判決は無期懲役、そしてその二人が仮出所したので約束通り二人を殺してほしいという手紙であった。そこから向井の苦悩の日々が綴られる。坂本伸子は当時すでに余命少ないはずだったが、まだ生存しているのか、それとも誰かが坂本に代わって向井を脅迫しているのか。その脅迫者からは頻繁に電話連絡が来るようになり、二人の暴行魔の居場所をも届き、早く殺さないと娘の命がないとの脅しとなる。向井は必死に二人の行方を探し出し、殺害のチャンスを作るが、今の向井には殺人などできない。

そんなこんなで、次第に脅迫者の顔が見えてくるのだが、これを読んだ読者の半分以上は、どこかの段階で脅迫者はおそらく○○だなあと気づくのではないか。その意味では、あっと驚くどんでん返しという感覚は味わえないが、向井が必死になって動き回る姿は、「天使のナイフ」の主人公を彷彿させるものがあり、ぐいぐいと引き込まれ、一日で読了しました。

今日はこの辺で。