下村敦史「告白の余白」

下村作品の集中読書月間になっていますが、本日読了したのが「告白の余白」。二、三日前によんだ「アルテミスの涙」も、作品名と内容には関係性が感じられなかったのですが、本作の「告白の余白」も内容との一致が明確ではありません。それに加え、本作は社会性がなく、読後感としてはいまいち。

高知で米農家を営む一家に、家を棄てて出て行った双子の兄弟の兄の方が、突然帰省で戻り、農地の半分を生前贈与してほしいと訴える。弟が農家を継いでいるが、どうしてもということで生前贈与することになり、手続きが済んですぐに、この兄は自殺してしまう。そして遺書には、2月末までに清水京子という女性が来たら、その土地を譲ってほしい旨の遺言があることが分かる。そこで弟が京都に住む清水京子を訪ねて真相を探りに行って、そこで清水京子本人や何人かの関係者と接触して、最後は真相が明らかになるというストーリー。

まず無理なのは、双子とはいえ弟=英二が清水京子に逢って、兄=英一ですと言って、簡単にばれてしまうのが普通ではないか。しかし、英二は京子さんが英一だと思い込んでいることを信じて、ふるまうのであるが、これはいかにも不自然。更に、英二さんは米農家で、2月から5月までずーと京都の町屋に住むことになるのですが、家賃もかかるし、生活費もかかるし、肝心の農家の仕事は両親にまかせっきりで大丈夫?と心配になってしまいました。

本書の最大の特徴は、京都という町の伝統、しきたりなど、特有の習慣などを事細かに描写しているところであるが、これはある種観光案内的な要素も含んで、小説としては別の興味深さはありました。特に、京都人の閉鎖性が強調され、伝統的なお祭りへの参加条件など、古いしきたりがいかに多いかも強調されています。

一応、生前贈与と英一の自殺の謎は、何の不自然性もなく明かされますが、本書のもう一つの特徴は、登場人物の言葉へのこだわり。京子さんは、いつ英二が英一の偽物であることが分かったか、過去のセルフで英二が思い起こすところがたくさんある。そして最大の謎の言葉、「北嶋英一さんが消えて、二度と戻ってきませんように」という清水京子が書いた絵馬の言葉の意味。清水京子は本当に英一を好きだったのか、それとも嫌っていたのか、京子さんは実は高地に行って英一の死を知っていて、英二に知らん顔をしていたのか、更には、英一の生前贈与で受けた土地を金に換えたかったのか?この辺は答えが出ないまま終わるのですが、京子さんはなぞの多い人物というのが、本書の最大の謎でした。

今日はこの辺で。