伊岡瞬「悪寒」

伊岡瞬さんの小説を初めて読むことに。今まで大きな賞はとっていないものの、推理小説界では知られた存在の様で、今回手にしたのが代表作に一つでもある「悪寒」。「悪寒」という書名が何を意味するのかは、読んだ限り判明しませんが、家族に起こった重大事件の中で感じる主人公の気持ちを一言で表しているのかも。

主人公である藤井賢一は大手医薬品メーカーの社員ではあるが、会社の不祥事の責任と取らされ、孫会社に単身赴任で出向している40代社員。山形県酒田市にある出向先の会社の支社では、支社長から執拗なパワハラを受け、短期の出向の約束も反故にされるような雰囲気でイライラが募る毎日。そんなとき、東京にいる妻からトラブルのメールが届く。妻が出向元の会社の常務を殺したことが分かり、藤井と家族・親族、刑事とのやり取りが展開される。会社は大きいが同族企業で、一族の間に争いがあり、それにも巻き込まれる形で話が展開。藤井は妻の無実を信じるが、中3の娘、認知症の実母、妻の妹という事件関係者の証言がころころ変わり、果たして真犯人は誰かという謎解きが始まる。

冒頭書いたように、大きな賞はまだ獲っていないとのことだが、確かに何となく話が薄っぺらに感じるのは私だけか?各賞の審査員もその辺のところを見ていて、一層の推理小説としての深みを期待しているのではないかと思った次第。主人公の藤井賢一という男の魅力もいまいちで、あえて言えば刑事の真壁が井岡作品で活躍するのではないかと想像されるように魅力的だが、本作での活躍はまだまだ。真犯人の動機についても、ちょっと現実離れしているように感じた次第。

今日はこの辺で。