下村敦史「サイレント・マジョリティ 難民調査官」

下村敦史の2017年の書下ろし作品「サイレント・マジョリティ 難民調査官」読了。2017年作品ということで、2021年に発生した名古屋入管施設でのスリランカ女性死亡事件の前ですが、日本における難民受け入れ基準が厳しく、その数が極めて少ない現状を踏まえた問題意識をもって下村氏が描いたのではないかと思われる側面もうかがえる。

難民調査官の如月玲奈を主人公に、シリア人の難民申請をめぐり、シリア内戦の深刻さと、日本国内で発生したシリア人殺害事件を絡めて、誰が真実を語っているのか?シリア人を殺した犯人は誰なのか?難民申請したシリア人男性とその娘の関係は?等々、推理小説のだいご味もふんだんに盛り込みつつも、やはり最も勉強になるのは日本における難民認定のプロセス、シリアの内戦の悲惨さ等、謎解きとは別のところに惹かれる作品である。これは一週間前に読んだ「法の雨」における有罪率99.7%の日本の刑事司法の現実を課題とした下村氏の、社会問題への批判的追及と同類。

如月玲奈さんのような、真摯に難民認定の調査をしている調査官が存在するのか否かについては、個人的には否定したくなるが、本作品で最も私を印象付けたのは、如月さんの考え方。確かに日本の難民認定には問題はあるが、そのほかの社会問題についてと同様、人間はある一方のイデオロギー固執する傾向があり、どうしても反対意見を拒む傾向があることについては、十分理解し、それを改めることの大切さ、いちばん大事なのは真実は何かを見極めるということ。難民認定の少なさを批判する山口記者が要所で出てくるが彼の態度が典型的。難民受け入れに反対する人は悪と決めつける態度を批判的に取り上げて、警鐘を鳴らしている。こうした考え方について、私自身も反省しなければならないことを痛感した次第である。

今日はこの辺で。