下村敦史「法の雨」

下村敦史作品集中読書月間2作目の作品は「法の雨」。冒頭は本作の主人公である高裁検察官の大神護が、“無罪病判事”と呼ばれる嘉瀬判事に、無残にも一審有罪を覆されて無罪の判決を受ける。大神はこれで逆転無罪が4件目で、有罪率99.7%の有罪が当たり前の裁判で罰点をくらい、検察での出世が絶望的になる話から始まる。日本の刑事裁判有罪率の高さは各種要因はあるものの、警察・検察・裁判所の役人的体質があることは周知に事実であるが、そんな中にあって嘉瀬判事の「証拠をじっくり精査」することの意味を忘れている証拠でもあり、隠れた冤罪はたくさんあることが予想される。

話が飛んで、そんな嘉瀬判事が無罪を言い渡した直後に法廷で病に倒れ、認知症となり、成年後見制度についての欠点などが結構詳細に書かれており、非常に参考となる。特に親族の後見人が勝手にお金を使いこんでしまう悪例が多かったことから、今では親族が後見人になる率が20%程度で、そのほかは第三者である弁護士や司法書士が多くなっていること、その結果として家族の生活費であっても、後見人の許可なしには使えないという不自由な制度面での欠点が強調される。この作品では、孫の医学部入学金が対象となり、後見人となった弁護士のかたくなな態度が、裏に何かあるのではないかと勘繰られる展開。結果的には後見人に不正はなかったものの、5,000万円以上の遺産があれば年間70万円ぐらいの費用が掛かることも本書で教わりました。

さて、本書の推理小説としての主軸は、最後の無罪判決事件が暴力団組長殺害事件で、看護師の男性が高裁で無罪となるのですが、その男性が報復で殺され、その犯人探しとなるのですが、どちらかというとその話の展開よりも、刑事司法のお粗末さと、成年後見制度の不自由さについて勉強できたことが収穫でした。

今日はこの辺で。