西加奈子「しずく」

西加奈子さんの作品を読むのは初めて。直木賞作家となり実力者であることは間違いないでしょうが、さてどんな作品を書くのか。
今回読んだのが「しずく」という短編集。表題作含め6作品からなっています。
印象に残った数編を紹介。
「灰皿」は、最愛の夫を亡くした70歳の婦人が家を貸すことになり、借りたのが変わった若い女流作家。彼女は奇妙な表題の作品で流行作家になったのですが、家主の老婦人のところに何度も顔を出して話しこみます。彼女との会話を通して、老婦人がいかに夫を愛していたかを振り返ります。
木蓮」は30半ばとなり結婚に焦っている女性が捕まえたのが41歳のバツイチ男性。ただしこの男性には7歳の生意気な女の子がおり、彼女に対して嫌味たっぷりの言葉をかけます。そんな二人がある日動物園に行って、お互いに本音を言い合って・・・。いい結果の余韻が残りました。
一番印象に残ったのが表題作の「しずく」。主人公は2匹の猫。2匹は男女のカップルと一緒に住んでいます。カップルは売れない脚本家とイラストレーターで、2匹の猫を家族同然にかわいがります。ところが二人とも作品が認められ売れっ子になると、二人とも猫をかまう余裕がなくなり、猫2匹の生活環境も悪化。最後はそれぞれが1匹ずつ連れて別れることに。何が問いかというと、猫側から書いていること。私も猫を何匹かかっていたことがあり、おそらく猫はこんなように思っていたんだろうと思うような表現をしています。西加奈子さんもおそらく猫を飼っているのでしょう。
最後の作品は「シャワーキャップ」。30歳になった女性が恋人と同棲するために引っ越しするのですが、母親がそんな彼女のアパートに手伝いに来る。母親は天真爛漫、何の悩みも持っていないような楽天家で娘とは正反対。娘は同棲相手に恋人がいるかもしれないという悩みを抱えて、母親の能天気さに腹が立てくる。でも、その母親もかつて彼女を妊娠した時には深い不安を持っていたことを知り、母娘のきずなを強く感じるのでした。
荻原浩「海の見える理髪店」と同じように家族のきずなを描いたこの作品。2冊続けて読んだので、いずれも同じ作家の作品かと勘違いするほどでした。
今日はこの辺で。