唯川恵「みちずれの猫」

唯川作品は一時夢中になって読んだのですが、しばらく遠ざかっていました。今回手に取ったのが、猫が必ず重要なファクターとして登場する作品7編を収めた短編集「みちずれの猫」。いつ読んでも読みやすく、何らかの感銘を受ける作家です。

  • ミヤァの通り道:「私」は3人きょうだいの真ん中で金沢に生まれ育ち、今は東京のイベント会社で働く身。子供の頃捨て猫を拾ってきて飼い猫としたミヤァが命付きそうだというメールをもらい3年ぶりに帰郷。すると久しぶりに姉と弟も帰郷して、両親と一緒に猫を見送る話。
  • 運河沿いの使わしめ:江美さんは29歳で結婚して5年後に離婚。離婚後会社から帰っても何もする気が起こらず部屋はゴミ屋敷に。そんな部屋に茶太郎君が現れ、江美さんは茶太郎さんの居場所を作るために部屋を掃除し、普通の生活へ。すると茶太郎はいつの間にか姿を消す。その猫は悩んでいる人のところに行って、普通の生活ができるようにする賢いネコさんだった。
  • 陽だまりの中:富江さんは29歳の息子を突然亡くし、失意の生活に。そこに猫が現れ、元気を取り戻していく。そんな富江さんの家に、息子の子を身ごもっているという女性が現れ同居し、生きがいを取り戻していく。しかしその女性のお腹の中の子は息子の子ではないことがわかり、女性出ていく。しかし、富江さんは空虚感を覚え、女性を呼び戻すことになる。
  • 祭りの夜に:鞠子さんは5年ぶりに祖父母の家を訪れ、猫神社と呼ばれる神社の祭りに行く。祖母は認知症が進み、鞠子さんは勿論祖父のことも認知できない状態。しかし、猫祭りの日に神社の裏で待ち合わせる人がいると言って出かけ、初恋の人に猫の覆面を付けて対面。相手は祖父だった。
  • 最後の伝言:あや子さんは6歳の娘の母親。そのあや子さんの父は、かつて母と自分を置いてほかの女のところに走った男。そんな父の相手女性からあや子さんに、父とあってほしいと言われ病院で面会。自分と母はあなたに去られても幸せだったことを強調。父はただ謝るだけだった。しかし、実は母が結婚していた父を奪い、再び元の妻のところに帰った事実を知る。唯川さんらしい、ジーンとくる話。
  • 残秋に満ちゆく:さえ子さんは軽井沢で花屋を営むバツイチ58歳の女性。ある日、かつて若いころ2年間ほど同棲した男から連絡があり、会うことに。彼は余命少ない身で、会社を退職してホスピス暮らし。さえ子さんは男と別れた後、別のお横と結婚して息子を育てたが、その息子が20歳の時に女性として生きたいと言ってカミングアウト。それから家族がバラバラになり彼女も離婚した経緯を話す。すると男は、息子さんのところに行こうと言ってくれて、そこで女性となった息子に会い、詫びるのだった。男はその後すぐに亡くなり、男が飼っていた猫をさえ子が引き取る。
  • 約束の橋:雪乃さんは80歳近いご婦人。彼女は群馬の田舎町に生まれ育ち、地元で就職し結婚するが、あいてはDV男。家を飛び出しやがて東京に出て化粧品会社に就職。いろいろなことがあったが、その後は独身をとおして定年退職。70歳まで化粧品会社で働き、今は悠々自適の一人暮らし。彼女のそばにはいつも猫がいて、猫に行かされてきた人生だったことを思い起こす。

以上の7編ですが、いずれも感慨深い作品ばかりで、唯川さんに感謝。

今日はこの辺で。