真保裕一「おまえの罪を自白しろ」

真保裕一氏の推理小説「おまえの罪を自白しろ」読了。真保作品は何年振りか、記憶もない有様だが、2019年とまだ新しい作品を選んで読み終わる。

「おまえの罪を自白しろ」とは、有力国会議員の孫を誘拐して、身代金ではなく、その国会議員に過去に犯した罪を自白する記者会見を開けと脅迫する物語。主人公はこの国会議員の次男で、父親の秘書を務める宇山晄司。父親の宇山清治郎は東大、国交省のキャリア官僚を経て国会議員になったが、長男が県議、長女の夫が市議を務める政治家一家。これに対して晄司は政治家になることを嫌い大学卒業後起業したが、仲間に裏切られて借金を負い、結局父親の世話になって秘書になった経歴。但し、その裏には、父親がわざと息子に事業を失敗させて秘書にし、将来自分の後釜にしようとした思惑があったことが語られる。

さて、孫を誘拐され、罪を告白するにあたって清治郎が思い浮かぶ罪の中には、時の総理が絡む案件があり、宇山側と官邸側の軋轢が生じ、法務大臣による指揮権発動の話が出てくるものの、官邸は婉曲的に拒否。一回目の記者会見での罪の告白では孫は釈放されず、次の罪が何であるかが模索されるが、地元埼玉の荒川河川敷の事業に絡む口利きではないかと絞り込み、第二回目の記者会見後には無事に孫は解放される。

さて、誘拐の真犯人は誰なのか?ここで晄司が鋭い読みを見せて、清治郎の議員辞職記者会見に合わせて一芝居うち、犯人の行動を促す手段をとり、まんまとそれに引っかかった犯人が、荒川河川敷の事業用地に現れ、かつて犯した殺人で骨を埋めた場所を掘り返そうとして御用となる。この犯人探しの難を言えば、これまで語られてきた人々とは全く関係のない人が突然現れ、犯人になっていること。冒頭に主な登場人物のリストがあるが、勿論その中に犯人の名前はなく、唐突感が否めない。

孫を誘拐され、過去の罪を自白せよと脅迫を受けた政治家一家の重苦しい雰囲気が伝わってくるが、最後には晄司がめでたく国会議員に当選し、父親と同じように口利き行為を行う様は、「政治家は誰もこんなものか」と想像させるに十分な描写でした。

今日はこの辺で。