道尾秀介「シャドウ」

今年8月に道尾秀介が、どの章から読んでも話が通じて味わいがあるの連作短編「N」を読み、道尾氏の技の巧みさに出会いました。そんな道尾氏が2006年の作品「シャドウ」読了。シャドウとは日本語的には「影」と訳されますが、本作における影は、小学5年生が観る幻のような映像を言っているのでしょう。

我茂凰介は父親の洋一郎、母咲枝の三人暮らしだが、母はがんの再発で入院中。洋一郎・咲枝夫妻の大学時代からの友人夫婦の水城徹・恵、娘の亜紀は、近所に住む。いずれも大学病院に勤めているが、洋一郎は精神科の医師、徹は研究者として働く。彼らの大学時代の先生が田地という医師。

主な登場人物は上記の通りで、先ずがんが再発した咲枝が亡くなり、咲枝の親友でもあった恵が、病院の研究棟屋上から飛び降り自殺。娘の亜紀が車にぶつかってけがをするという不幸な事象が続く。凰介の同級生でもある亜紀は、母親の自殺を苦にして自ら車に飛び込んだのか?恵は本当に自殺なのか?そんな謎を含みながら、物語は父親の徹を遠ざける亜紀と、彼女を助けようとする凰介、徹は病気なのか、亜紀が怖がる洋一郎は、ひょっとしたら秋にいたずらした犯人なのか、といういかにも読者に思わせるような描写が緊迫感を生む。そして、父親を心配する凰介が心から信頼する田地という教授は本当に信頼のおける人なのか?といった謎が、凰介と亜紀によって明らかにされ、間一髪で亜紀と凰介は田地に救われる?それとも洋一郎に救われる?

本作は、児童性愛や病弱な教え子への性暴力など性的異常者に対する復讐劇に最後は収れんしていますが、洋一郎がその復讐のために自らを精神障碍者になりすまして周りをだましているのはなかなか見破れませんでした。

今日はこの辺で。