藤沢周平「三屋清左衛門残日録」

藤沢周平「三屋清左衛門残日録」読了。大名の用人(殿様と秘書的な役目で、家老に殿様の意向を伝える役目)を辞め、隠居した55歳ぐらいの武士、三屋清左衛門。隠居したものの、友人の町奉行や後任の用人など、様々な友人、知人から仲裁や立会人、相談を受け、解決に向け骨を折るという短編連作もの。
55歳で隠居するのは羨ましい話ですが、人生50年の時代、年齢的には隠居もおかしくない時代なのでしょう。
そんな三屋が遭遇する事件の多くは、藩の権力争いや出世したしないの嫉妬話がほとんど。
武士の世界にあっては、石高による身分のほかに、藩の役職に就くか否かが大きな問題。藤沢周平は特にこの辺の話が巧みで、現代の会社や役所の社員や役人の世界に通じています。
120石取りから始まった三屋は用人となり、最後は270石まで加増。それに対して彼のかつての朋友、金田奥の助は150石取りから始まって、最後は25石取りに落ちぶれる。こんな対照的な二人を取り上げた一編は、特に印象に残りました。
そしてもう一つ、今にも顔が浮かびそうな息子又四郎の嫁里江。いつも明るく笑っているようなさわやかさが伝わってきました。藤沢の作品に出てくる女性もまた魅力的。
かつてNHKでドラマ化されたようですが、全く見ていなかったのが残念。小説を読んだので、是非ドラマも見てみたいものです。
今日はこの辺で。