長岡弘樹「119」

読んで字のごとく、消防署の消防士を主人公とした短編作品。8作が収納されていますが、主人公はそれぞれ違う物語になっている連作短編。とある都市の消防署の分署を舞台に、そこで活躍する消防士の物語。

  • 石を拾う女:漆間分署の救急班の指令を勤める今垣係長は、ある日石を拾って川に向かう女性が気になり後を付ける。案の定、その女性は自殺するつもりで石を拾っていた。今垣は説得して(その場面は語られないが)、その後付き合うようになる。その女性が再び薬を飲んで自殺未遂を図るが、それは狂言自殺ではなかったかと今垣は疑う。
  • 白雲の敗北:マンションの2階で火災が発生し、栂本係長の先導で土屋が305号室に救助に向かう。そこには男性が倒れており、救出したものの病院で死亡。救出中に土屋は栂本が現金をポケットに入れた場面を目撃し、不正を疑う。しかし、栂本が入れたのが死んだ男性の楽譜だったことがわかり、土屋は敗北。
  • 反省室:年休中で野鳥観察に来ていた女性消防士の安華は、強風の中、民家のそばで焚火をしていた男を発見し、その男の下に走る。間に合わず火が延焼し、一人の少年の命が奪われる。男はその少年に性的ないたずらをしていていて、故意に少年を殺そうとしていたことが発覚する。
  • 灰色の手土産:しょうがっこうから“命の大切さ”をテーマに講演してほしいと頼まれ、中堅になりつつある大杉が講師となり、最近あった犬が弁護士にかみついてけがをした事例を参考に、自分がブラジルにホームステイで行っていたころの、犬が人にかみついたエピソードを話す。大杉を指名した今垣は、その話を後に小学校の新聞で知り、一つだけ奇妙な嘘を発見する。最近あった犬の事件には今垣も行っていたが、そこに奇妙な嘘があったのだ。
  • 山羊の童話:今よりひどい環境に身を置けば、現状がいかに楽かがわかるという童話の話を失業した友人に話していた垂井が、その友人を助けられず死なせてしまったことを悔やみ、自分も死のうと覚悟するが、今垣はそれを読み取って彼を思いとどまらせる。
  • 命の数字:消防局の栂本は、父親に普段の防災グッズについてしつこくアドバイス。父親は空返事で対応。その父親に同じ年配の友人から棚の異動を手伝ってほしいとの依頼。友人の自宅に赴き手伝うが相当の重量物。父親がトイレに入っている最中に、友人が一人で作業していた時、棚が傾いて友人は下敷きに、父親はその棚が妨害してトイレから出られなくなる。父親は携帯を首にぶら下げておくようにという忠告を無視したことに後悔。しかし、彼はトイレの扉を壊し、更には5m先の電話の受話器を何とか外し、口から発する音で119番通報する。これは彼が音楽教師をしていた中で身に着けた特技だった。
  • 救済の枷:和佐見市の姉妹都市である何べきコロンビアの町に技術指導に来た猪俣は、ホテルに帰る途中誘拐される。4日間の誘拐監禁中に、誘拐犯たちは警察当局と交渉していたが、彼らは捕まった。猪俣は手錠をかけられていたが、彼は自分の骨を骨折させて手錠から手を抜き脱出。これを見たバスケスという現地の教官は、猪俣がコロンビアに何かしらの自責の念を持ってきたことを見抜いていた。猪俣は自分の部下を死亡させていたのだった。
  • フェイスコントロール:土屋は同期で親友の大杉が退職するしたことで、大杉に手紙を書く。その内容は、土屋が総務課長の渡貫にパワハラを受けていたこと、その渡貫の引越しの手伝いを大杉がしていて、たまたまそのマンションが火災になり、出火元の上階であった渡貫の部屋にいた大杉が渡貫をクローゼットに押し込み、自分は土屋のはしご車に救助されたが、渡貫は死亡したこと。その中で何があったかを、今垣が大杉の表情で気づいていたことを記したのだった。渡貫の土屋に対するパワハラを止めるために、故意にした行為だったことを。
  • 逆縁の午後:ある土曜日の午後、吉国勇輝という消防士の殉職したことに対するお別れの会が開かれる。そこで父親が勇輝の思い出を語る。息子には恋人がいたこと、優秀な消防士で、転落が信じられないことなど。一方で父親の自分は今若い女と付き合っていることも冗談交じりに話す。会が終わった後、今垣は土屋に、勇輝の恋人はその火事で亡くなった27歳の女性で元消防局にいたこと、その女性の部屋にいたのが父親であること、それに気が付いた息子は自殺したのではないかという推理を。この話が最も怖い内容でありました。

消防署の人間模様を中心に、9編の短編が織りなす社会の縮図のような物語をうまく構成している作品でありました。

今日はこの辺で。