大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」

一昨年の直木賞受賞作、大島真寿美著「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」読了。

江戸時代、大阪の浄瑠璃作家、近松半二の浄瑠璃作家としての生涯を描いた作品。近松半二は実在の人物で、大阪の儒者であった穂積以貫の次男として生まれ、浄瑠璃小屋の竹本座と関係が深かった父親の影響で若い時から浄瑠璃に親しみ、ついには竹本座の座付き作家となり、数々の名作を書いた人。特に「妹背山婦女庭訓」は大当たりした名作であり、本の題名ともなっている。

近松」は近松門左衛門にあやかったもので、半分でも近松に追いつこうとして付けたという本作の由来が真実か否かは別として、若いころからの苦労と、周りの人間からの影響を受け、立派な作家として育っていく過程、そして傑作と言われる「妹背山婦女庭訓」が書き上げられる家庭など、読みやすい文体で描かれます。特に、当時の大阪道頓堀界隈の芝居小屋の風情、歌舞伎との客の奪い合い競争、結局は歌舞伎に敗れて、衰退方向に向かう浄瑠璃の世界を半二の人生とともに描く。確かに現代でも隆盛なのが歌舞伎で、浄瑠璃は「文楽」として細々と興業しているのが現実。半二のよきライバルであり、よき理解者でもあった並木昭三との交友関係も描かれ、実在の人物を中心に据えて360Pの長編を書きあげた大島さんの筆力を、直木賞選考委員の方々も評価したようです。

今日はこの辺で。