辻村深月「琥珀の夏」

辻村さんの540Pの大作「琥珀の夏」をやっと読了。この作品は2019年3月から地方新聞数社に連載された作品で、単行本化が2021年6月なので、安倍晋三銃撃事件後に大騒ぎになった統一教会問題を想定したものではないのですが、何となく宗教的な団体を扱っていることから、先見の明を感じさせなくもなく、興味深く読み進めるものの、やはり題材的には何か別の団体を想定したのではないかと勘繰ってしまう内容。

登場する主人公は、今では40歳になった弁護士の法子(ノリコ)さんと、法子さんがかつて夏の1週間だけ「ミライの学校」と称する団体に留学し、そこで知り合った同じ歳の美夏(ミカ)さん。ミカさんは両親と離れてその団体の施設に預けられ、そこで暮らしている人。

序盤の話は、ノリコは友達に誘われてこのミライの学校に留学しに来たが、なかなかなじめない。そんなノリコと友達になるのがミカさん。二人は意気投合し、彼女に会うためにノリコは翌年も翌々年も来ることに。しかし3年目に来たときにはミカはいなかった。

時は過ぎて30年後、弁護士になった法子さんに、ミライの学校があった土地で子供の遺体が発見され、自分たちの孫ではないかとの相談が弁護士事務所にあり、ミライの学校の東京事務所で、偶然にも美夏さんと出会う。ミライの学校では、泉の水を販売していたが、そこから菌が見つかり社会的な批判の対象になり、泉があった静岡の施設からは撤退し、今は北海道を中心に学校を継続している。美夏は婦人部長として東京事務所で渉外業務などを担当している。そんな美夏さんが、遺体は自分が殺した人だと主張していることから、元の夫で法子さんもかつてミライの学校であこがれていた滋さんに美夏の弁護を依頼されるというストーリー。

前半部分のノリコさんの心細さの描写や、ミカさんとの出会いなど、いかにも辻村さんらしい繊細さがありますが、遺体が発見されてからのミステリー的な描写は若干期待外れ。最初にあった田中という女性が、実は40歳になったミカさんで、ミカさんが事件後どうやって団体で過ごしてきたのかの描写はなく、そこが残念なところ。

本作の焦点がどこにあるのかがあいまいな点も感じた次第。

今日はこの辺で。