辻村深月「朝が来る」

辻村深月さん作品を集中的に読もうと思い、「朝が来る」読了。

特別養子縁組制度については、何かの本で読んだことがあるのですが、こうした小説を読むとより理解が深まります。本作は、この特別養子縁組制度を利用する、すなわち子供を持ちたい夫婦と、子供を育てられず手放す母親の物語を描いています。

夫の無精子症のために子供ができないことが分かった40歳の夫婦が、どういう生活や心理状態の変化で養子を迎えようとしたかをまずは描きます。夫婦いずれも人間的にも何ら問題のない良心的な夫婦。そして、子供を育てられずに手放さざるを得なくなった母親はなんと14歳に少女。同じ中学校の同学年の少年との間にできてしまった子供。すでに中絶できない段階に来ていたため、親が特別養子縁組制度をあっせんする団体に預けて、40歳夫婦に引き取られ、幸せに暮らしている姿が前半描かれます。後半が14歳少女の、子供ができるまでと、出産後の悲惨な生活状況が描かれます。中学生で妊娠することの世間体の悪さ、さらに出産することの重大さ。親のそうした思いへの少女の親への反発から、少女の生活と心は悪いほうに悪いほうに向かい、まともな社会生活を送れないことに嫌気がさしていく姿が、心を締め付けるように描写されます。

日本での15歳未満での出産件数は、古い統計ですが2010年51人、2013年51人、1975年が9人ですから、増えているのは驚き。さらに2013年の妊娠数は318人なので、86%が中絶している。年齢が進むにつれて中絶率は低くなりますが、それでも19歳で51%の中絶率。20歳未満の中絶率は60%に及びます。全年齢での中絶率は15%となっている(いずれも2013年)。

SEXを遊び感覚で楽しんだ結果の家族の断絶、そして本人の悲しい人生。ただし、辻村さんが描こうとしたのは、若い人への忠告だけではなく、親世代の理解啓蒙でもあるのでしょう。

今日はこの辺で。