岩井圭也「付き添うひと」

岩井さんの作品は初めて、略歴を見ると1987年生まれの36歳ということで、本作「付添うひと」を読んだ限りでは、今後が楽しみな作家。

付添人とは、少年事件において、少年に寄り添い少年の権利を守っていく人のことで、主に弁護士が勤めます。本作の主人公は朧太一さんという弁護士で、彼は付添人を専門にやっている弁護士。彼は少年時代、ひどい両親から空き巣を命じられ、親子という力関係から命令に従わざるを得ず、ついには捕まって少年院暮らしをした経験がある。そうした過去の思いから、奮起して勉強し弁護士となり、少年事件の付添人を専門に行っている。

本作は5つのエピソードからなり、オボロさんならではの知識と感性で少年の権利を守っていく姿が描かれる。

1.「どうせあいつがやった」:金槌でホームレスの人を殴った少年が、実は彼の級友だった高校生の犯行であったことをオボロさんが突き止める。シングルマザーの家庭でネグレクトにあっているような少年は、「どうせあいつがやった」と思われてしまう悲しさ。

2.「持ち物としてのわたし」:少女から虐待を受けていくところがないとの連絡が入り、オボロが緊急時シェルターに入居させ、オボロは周辺事情を調査する。少女は母の再婚相手の父親から虐待を受けたと主張するが、オボロは両親に面会し、実は母親が虐待していたことを突き止める。子供は親の持ち物としか考えない母親のむごさ。

3.「あなたは子どもで大人」:オボロは虞犯少年として補導された15歳の少女の付添人となる。彼女の家庭は父親帝国で、全てに父親が口を出し決めるという家庭。そんな家庭に嫌気がさして何度も家出して補導されたことから、虞犯とされる。結局母も姉も同じように嫌気がさしており、3人は母の実家で一緒に暮らすことで一件落着。本編では、少女が笹木さんという女性のところに一時避難していたことがあり、以後笹木さんの生い立ちも同じような境遇の家庭で育ったことがわかり、オボロさんと笹木さんは交流を始める。

4.「おれの声を聞け」:引きこもりの中学生がSNSである声優を誹謗中傷する書き込みをしたことから、プロバイダーからアカウントの開示請求が来たとの相談を母親から受ける。オボロさんは、少年が「ディスクレシア」という障害があるのではないかと疑い、SNSや家族の調査で確信。家族全員で少年を見守ってほしいと依頼。声優からの損害賠償請求はなくなる。

5.「少年だったぼくへ」:両親が会社の金を横領した罪で逮捕され、10歳の少年の行き場がなくなる。その少年は、オボロに両親がなぜそんな罪を犯したのか、その動機を聞いてほしいと頼む。オボロさんは父親に面会するが、回答はない。少年に面会すると、父親から手紙が来ていて「もっと幸せになりたかった」との手紙が来ていたことがわかる。

本編の中ではオボロの母親が亡くなったので、遺体を引き取ってほしいとの連絡が来るが、オボロはこれを拒否。オボロさんは、笹木さんと交流することで、次第に自分がかつて少年院にいたことを隠すようなことはしないようになるのだった。

柚月裕子さんの「あしたの君へ」に登場する家裁調査官のような雰囲気を持つ作品で、オボロさんはシリーズ化されそうな余韻をもって終了。

今日はこの辺で。