辻村深月「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」

辻村深月さんの長編作「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」読了。この作品をNHKが長澤まさみ主演でドラマ化しようとしたものの、脚本が本作の趣旨から離れているという辻村さんのクレームで裁判沙汰にもなったといういわくつきの作品。この件はあとで述べよう。

この物語は、地方(ここでは辻村さんの故郷山梨)出身で今は結婚して東京に住む一方の主人公神宮司みずほと、地元の短大を出て契約社員として働く望月チエミを軸に、チエミが母親を殺して姿を消し、みずほが真相を探り、その行方を捜すため知人友人などに会って話を聞き、地方に住む女性たちの複雑な思いを浮き彫りにしていく。

女性の小中高時代の友達であっても、大学・社会人になると差し迫った問題が結婚。理想の男性と巡り合える人もいれば縁のない人もいるのは当然。しかし、女性に限りませんがどうしてもかつての親友などと比べてしまうことも、また当然なのでしょう。こうした状況下、30歳になったみずほとチエミ、更にはほかの友達なども出てきて、特に結婚していないチエミの焦りのようなものが浮かび上がります。母親に喜んでもらえると思ってした告白が、実は怒りを買い、悲劇を生む切ない物語ですが、地方の縮図のようなものを感じます。

さて、冒頭の裁判ですが、NHKは脚本家に依頼し、その一部が辻村さんの意図と全く違うことからNGを出したものの、NHKはすでに6,000万円近い制作費用を使っていたため、出版社の講談社に損害賠償訴訟を提起。結果的にNHKは敗訴したのですが、間に講談社が入り、NHKと辻村さんが直接交渉した形跡がないようです。辻村さんは最初から講談社代理人的に交渉させたということでしょうが、法的にはこの問題はあくまで辻村さんだけの許諾があれば済むこと。しかし、NHKの訴訟相手が出版社である講談社であったことから、当事者が講談社になってしまったところがNHKの失敗のような気がします。

この作品がどのような形で映像化されたのかをぜひ見たかったのですが、残念でした。

今日はこの辺で。