池井戸潤「民王 シベリアの陰謀」

池井戸作品も久しぶりとなりました。本作「民王 シベリアの陰謀」は、2021年5月に雑誌「小説 野生時代」にプロローグと第一章が掲載されましたが、何故かそれ以降は書下ろし。2021年5月と言えば、日本でのパンデミック発生から約1年後で、これからさらに感染拡大していくという時期。緊急事態宣言が前年に初めて発出されていましたが、本作はこの緊急事態宣言を中心とした主人公の内藤泰山という時の首相の動静を中心に描く。

前作「民王」では、泰山と息子の翔が入れ替わってしまうという、より喜劇っぽい作品でしたが、本作では、おそらく池井戸氏が実際に起こったパンデミックへの政府の対応をよく観察して、書き下ろしたことが読み取れます。

ウィルスはまず女性環境大臣への感染から始まり、感染源がシベリアの雪の中に埋まっているマンモスから発見されたという設定。それを発見したのは既に亡くなっている研究者。その研究者のライバル研究者がこっそり研究を自分のものにして、翔が入社した会社と手を組んで大儲けしようと企む。それが最後に暴露されますが、今回は泰山と翔の入れ替わりはなく、泰山のパンデミック対応が野党やライバルから批判を受けるのに対して、泰山がそれに挑んでいくという設定。陰謀論を信じたデモ隊が首相官邸に侵入するという、アメリカのトランプによる議会侵入事件を彷彿とさせる場面もあります。そういう意味でまじめな小説なのですが、設定が空想っぽく、話にメリハリがないことから、池井戸作品としては面白みに欠ける内容と感じました。

今日はこの辺で。