彩瀬まる「新しい星」

彩瀬まるさんの小説は初めてで、本作「新しい星」は直木賞の候補作になったということで、読んでみようと借りたのですが、こうしたいい作品を書いている女性作家がいることを知ったのは、一つの収穫でした。

本作は2019年9月号の別冊文芸春秋から連載されたのですが、第一作と第二作までは新型コロナウィルスによるパンデミックは発生しておらず、第三作からパンデミックの話題が出てきます。こうした連載物は、作者がその時々に起きた様々な事象を作品に盛り込むことができる柔軟性があって面白いものです。本作は第一作の「新しい星」から第八作の「ぼくの銀河」までで構成されており、登場人物は大学時代に合気道部に所属していた同窓の女性二人と男性二人。

青子さんは、結婚し子供を出産したものの、早産で2か月後にはなくなり、大きな喪失感を背負いながら生きていく女性。夫とも離婚し、実家住まいを経て今は一人暮らし。そんな青子と最も仲の良かった茅乃さんは、結婚して一人娘を育てるが、若くして乳がんになり、手術で乳房をなくし、更にがんの再発で病気との闘いが続く女性。娘にも辛く当たってしまい、自分の存在感も失いかねないような生活が続く。男性陣の玄也さんは、会社に勤めたものの、上司とそりが合わず、その上司からパワハラ的な扱いを受けたことをきっかけに会社に行くことができなくなり、会社を辞めて引きこもりが続く生活。もう一人の男性の卓馬さんは、学生時代から最も社交的で、今は税理士として働く身。しかし、コロナパンデミックで奥さんが東京での感染を恐れて実家に帰って東京に戻りたくないと言い出し、一人暮らしが続く。こうした4人が、各話の主人公となり、自分の人生や生活の一コマ一こまを描くと同時に、4人の真の友情を高らかにうたい上げる。話は、彼らが20代後半から40代までの約10数年を描いていますが、いちばんのハイライトは、茅乃さんの癌と40代での死。それに寄り添う3人の友情。私が本作を読んで最も感じたのは、学生時代の部活の仲間の友情がこうした形で続くことへの嫉妬。自分の学生時代を振り返って、部活やサークル活動が皆無で、「仲間」と言える存在が皆無、即ち、大学生活には空白しかないということから、嫉妬を感じてしまった次第。もう一度学生に戻れるなら、一生の仲間と言える友達を作りたい。

今日はこの辺で。