嶋津輝「スナック墓場」

 

島津輝という作家は、初めて聞き、初めて読む。短編小説が得意なようで、本作には表題作「スナック墓場」含め7編の作品が収められていますが、いくつかの作品は何らかの賞を受けたかノミネートされたもの。7編とも大きな事件事故があるわけではありませんが、いわゆる味がある作品ぞろい。

「ラインの二人」は、アラフォーの女性二人が倉庫での箱詰めなどのライン作業を行う現場で、日給の契約社員で働く。二人は作業が早く、何となく親しくなり、正社員の女性の号令に愚痴をこぼすなど、日常的な生活でも一緒に過ごすような間柄になるという話。

「カシさん」は、中年夫婦が営むクリーニング店に下着まで持ち込んできたカシさんという若い女性をめぐって、夫婦の日常やカシさんと次第に親しくなっていく関係を淡々と描く話。

「姉といもうと」40代の共働き夫婦が住むタワーマンションの部屋の家政婦となった若い女性とその妹が、偶然にも40代夫婦と縁ができてしまう。姉は夫婦の掃除・洗濯・炊事を5日間通いで行っている。妹は手の指がいくつか欠けているが、ラブホテルの受付やら何やらをオーナーに任されてやっている。姉は妹の指がなぜ欠けているのかを知らないまま、今日に至っているが、そんな妹は夫婦の息子と親しい仲にあり、夫婦とも会食したとのこと。その場で旦那さんの方が指について直接尋ね、妹のことを傑物と称したことを聞き、自分は今まで何かを遠慮していたことに気づく。

「駐車場の猫」は、商店街の売りの一つでもある猫たちに餌をやる布団屋の夫婦と、向かいで鰻屋を営む女主人との関係を描く。向いで商売しながら、疎遠な関係にある二人だが、猫を通して親しみを感じるが、知らない間に鰻屋は閉店してしまう。

「米屋の母娘」は、アラフォーと思われる男性が、母が足を悪くしたため、毎週母の住むマンションを尋ねる。途中、近くにある米屋で安い弁当を買って母の家で食事するのが習慣になった。その弁当のおかずは大変見すぼらしいが、安いからしょうがないと思っている。いつも母と娘が店頭にいるがどちらも不愛想で、ありがとうの一言もない。ある時、メインのおかずが入っていない弁当を買う際、店でも気が付いて母娘が恐縮してしまう場面が面白い。

「一等賞」は、商店街の名物男であるアラオさんにまつわる話。彼は精神の病を抱え、症状が出る時には、街の通りを大声で意味不明な声で歩く。町の人はそれをよく知っていて、優しむ見守っている。

表題作「スナック墓場」は、雇われママと二人の女性がいるスナックは、商店街でも一番客が多い店。美人がいるわけでもないスナックだが、遠慮なく客同士が話せる雰囲気があるから、常連客は引き付けられる。しかし、何故かその店の客が3か月おき位に亡くなる現象が生まれる。ついにはオーナーさんも亡くなって、店はついに閉店。犯罪があるわけではないが、3人の女性には過去に悲しい思い出があり、それも語られる。

何気ない日常風景を描きながら、それが記憶に残るような作品になるという典型的な痰分小説の良作でした。

今日はこの辺で。