原田ひ香「ランチ酒」

原田ひ香さんの作品三作目は、「孤独のグルメ」の女性版で、深夜に変わった仕事をしている犬森祥子さんが、翌日のランチのお店でお酒を飲みながら、そのお店の雰囲気や料理の内容などを書き綴るのですが、「孤独のグルメ」と違うところは、その深夜のお仕事でのエピソードにも重点を置いて、あくまで小説として読ませる作品になっているということ。

祥子さんは、31歳のバツイチ女性。別れた夫とは合コンで出会い、なんとなく結婚したものの、義母との折り合いが悪く離婚し、行くところがなくなったときに、故郷の同級生で、今は変わった商売、「中野お助け本舗」なる深夜の見守りを請け負う会社の社長である亀山さんの仕事をこなしている身。月一で娘との面会もしている。そんな祥子さんが派遣された見守りの家庭でのエピソードを、全部で16の街の名前を題して語る。

例えば「武蔵小山肉丼」では、武蔵小山のタワマンに暮らすシングルマザーからの要請で、その娘を深夜に見守り、明けた翌日にその町の肉丼が売りのお店に入って、焼酎を飲んだり・・・。

15編全部紹介はできませんが、私が気に入った話では「新宿 ソーセージ&クラウト」の話。若い漫画家の家に呼ばれ、漫画家のパーティーに出席して、先輩諸氏に失礼なことを言って後悔してしまう彼女を慰めるエピソード。帰りには新宿の地下街にある朝のみ可能なお店でビールを飲む話。「代官山フレンチレストラン」は、元夫から再婚するといわれ、娘にはそのことを祥子さんから言いたいと言って、代官山のフレンチレストランで食事する話。ここで面白かったのは、中学生の時に祥子さんたちがフレンチのマナーを教えてもらったこと。これって面白いなーと思った次第。

ランチ酒とは、翔子さんにとって、深夜の仕事を終えて、そのご褒美にうまいものと一緒にお酒類も飲んで、自分を慰めること。でも最後の方では、こんな深夜の仕事は一生は続けられない、何か資格も取らなければという決心が伺えます。

本作では、祥子さんが入るお店の名前は出てきませんが、おそらく各地名のところに実際にその店があって、原田さん自身がそのお店に入って賞味したのではないかと思います。

各エピソードは大変短いものですが、面白い小説でありました。

今日はこの辺で。