馳星周「帰らずの海」

馳星周の警察小説「帰らずの海」読了。警察小説はサスペンス小説の定番で、横山秀夫先生の作品は典型ですが、謎解きではなく、あくまで警察官を主人公に、人間模様を織り交ぜながら描く範疇の作品。

北海道警の刑事、田原稔が主人公で、彼は函館生まれながら、17歳である事情で函館を去り、札幌で高卒検定を受けて、道警に就職。道警本部から函館西署に転勤。20年ぶりに函館に戻るが、戻って早々にかつての恋人で会った水野恵美が殺される事件に遭遇し、犯人を追う。20年前の出来事と今現在の出来事が代わりばんこに語られるというスタイルで、過去に実の周囲で何が起きたのか、そして今現在の恵美殺しは誰なのかという犯人探しの物語が進行。

稔の父親はかつて函館の刑事で、贈収賄事件を追っていたが、穣が高校生の時両親が交通事故で死亡。父親の親友でもあった水野建設の社長に引き取られ、水野家で暮らす。水野家には稔の親友の郁夫と妹の恵美がおり、稔と恵美はお互いに好き合う中に。しかし、両親が死んだのは社長と代議士の仕業だったことを知り、水野家にいられないと悟り、札幌に向かった過去があった。そして、恵美が殺された事件が、20年前に稔と恵美が経験した殺人事件に関係していることが次第に判明。犯人が絞られていく。

本作のもう一方の主役が殺された恵美。稔のことを20年間も思い続けたあげく、一度は15歳の時に犯され、20年後にその事件とつながりのある人間に犯され、かつ殺害されてしまう悲しい運命。そんな恵美を守り切れなかった稔の無念が、最も印象に残る作品。謎解きよりも、二人の関係が20年間の時を経ても結びついていたことが印象的な作品でした。

今日はこの辺で。