小川洋子「ことり」

幼稚園の小鳥小屋の掃除等の面倒を毎日見てくれることから、「小鳥の小父さん」と呼ばれる男性の、まじめな人生を描いた小川洋子さんの作品「ことり」読了。

主人公である小鳥の小父さんにはお兄さんがいて、そのお兄さんは子供の頃から何故か人間の言葉を話すことができず、小鳥と会話する言葉を話す。したがって、人間社会で普通に学校や仕事をすることができず、ずっと家で過ごす生活。両親はお兄さんの言葉を解せず、唯一弟の小鳥の小父さんが、お兄さんの言葉をわかるような状態。母親は心配していろいろ治療を試みるが効果がなく、そのうち両親が亡くなり、兄弟二人の生活が始まる。弟は家の近くにある企業の接待用の施設の管理人になり、兄は留守番する生活が長く続く。兄は小鳥が好きで、幼稚園の小鳥小屋を眺めるのが習慣だったが、その兄も近くでなくなり、弟は一人暮らしを通すことに。施設の管理人を定年まで勤める一方、幼稚園の小鳥小屋も毎日欠かさず掃除して、園長先生に感謝され、子供たちからは「小鳥の小父さん」と呼ばれる。しかし、本人は人との付き合いが苦手で、コミュニケーションをとるのは園長先生と、図書館の司書さん、そして小鳥たちぐらい。特に図書館の司書さんとは、若いながら本についての知識が豊富で、彼女と話すことが小鳥の小父さんの楽しみにもなる。残念ながら園長さんは引退していなくなり、司書さんも図書館を去って、再び小父さんの相手は小鳥だけになってしまう。

そんな寂しい小鳥の小父さんの人生ながら、彼には小鳥という素晴らしい話し相手が人生を通じて寄り添ってくれたのだった。

小川さんの作品は久しぶりでしたが、特に大きな出来事もない話の中に優しさがあふれ、記憶に残る作品ではないかと感じた次第。

今日はこの辺で。