宮内悠介「ラウリ・クースクを探して」

宮内さんの作品は初めてで、本作「ラウリ・クースクを探して」は直木賞候補作にもなった作品。既に直木賞ノミネートは「盤上の夜」、「ヨハネスブルグの天使たち」、「あとは野となれ大和撫子」を含めて4回、更に芥川賞にも「カブールの園」、「ディレイ・エフェクト」で二回ノミネートされており、第一級の作家と言っていいでしょうが、どちらの賞にもいまだにたどり着いていないのは残念。

本作は、1991年のソ連崩壊に前後して独立したバルト三国の一つ、エストニアに生まれたラウリ・クースクというIT技術者が、国の独立した時期に少年期を過ごした第一部、独立後20歳前後になった経済混乱期の青年時代を描いた第二部、そしてロシアのウクライナ侵攻後の現在を描いた第三部で構成される。

ラウリは数字が好きで、数字ばかり書いていた幼少期、両親からも将来が楽しみと言わしめていたが、小学校に上がってからは国語が苦手なことから落ちこぼれ気味。しかし、数字が好きな影響からコンピューターのプログラム作成が得意で、次第に頭角を現す。そんな彼のライバルかつ親友となるのがロシア人のイヴァン少年とカティア少女。三人はお互いに切磋琢磨し、かつ助け合いながらゲームのプログラム作成に熱中。しかし、独立機運が高まると、イヴァンはロシアに帰国、カティアは独立運動に没頭、ラウリはイヴァンを慕う一心で反独立の仲間に入ってしまう。

第二部の青年期、ラウリはコンピュータープログラムから離れ、紡績工場の工員として働く身。かつて小学校で仲が悪かったアーロンという青年と今は仲良く酒を飲む中。アーロンも反独立派にいたことから、今は不遇でラウリと同じ工場に勤める。そんなアーロンが自殺したことからショックを受け、再びコンピュータープログラマーとしての職を得ることに。エストニアは人口100万人ほどの小国ながら、情報通信社会先進国を目指して国を立て直している最中で、ラウリもそれに貢献していく。

第三部で、小学校時代に分かれたイヴァンがロシアでジャーナリストになり、ラウリを探し、再会を果たす。

本作はロシアのウクライナ侵攻後に書かれた作品で、ソ連崩壊、バルト三国独立、その際の経済的混乱や独立した国における民族対立など、今日的な要素を含みつつ、決して歴史に名前を残すような人物ではないラウリ・クースクという人物を主人公として、時代の大きな波に翻弄される人々を淡々と描いた作品で、時代的背景を知る一つの手掛かりにもなる興味深い作品でありました。

今日はこの辺で。