青山美智子「お探し物は図書室まで」

スポーツジムの若い読書好きの青年から紹介してもらった三人の作家、青山美智子さん、小野寺史宜さん、寺地はるなさんのうち、まず最初に青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」を読了。

五つの連作短編形式になっており、通して出てくるのが図書室の司書をやっている小町さゆりさんで、彼女に本を紹介してもらうのが、各短編の主人公で、悩み多き人たち。

  • 朋香さんは21歳、スーパーの婦人服販売員をやっているが、仕事自体が単調で転職したい気もある女性。そんな悩みを抱える彼女が、エクセルを習おうと図書室の小町さんに本を紹介してもらうついでに人生相談。実務書と一緒に「グリとグラ」も紹介され、羊毛フェルトもくれる。なぜこんな本を紹介してくれるんだろうと不思議に思いながらも、興味深く読んでいくと、昔読んだときの記憶と勘違いしていた部分があったことに気づく。その後顧客対応に苦労し、ベテランの契約社員に助けられるなど、自分のふがいなさに気づき、仕事に打ち込むことになる展開。
  • 諒さんは35歳で、家具メーカーの経理部に所属。彼は高校生の頃にアンティークショップで銀のスプーンを買ってから、骨董に興味を持ち、アンティーク店を開きたい夢がある。図書室に行き司書の小町さんに会って起業の本を紹介してもらうが、同時に「・・・植物の不思議」という本も紹介され、羊毛フェルトももらう。彼はこの植物の本に魅せられ、恋人の比奈さんと会社勤めをしながらショップを開く準備を始める。
  • 夏美さんは40歳の元雑誌編集者。彼女は35歳で出産し、育休後復帰したが、会社に資料部異動を言い渡され、キャリアを台無しにされたと思うが、実際に育児をしていると、とても締め切りのある雑誌編集は無理と悟る。そんな彼女が司書の小町さんに2歳の娘用の絵本を紹介してもらい、本人用に「月のとびら」という本を紹介される。

そこには自分の向かうべき道が何となく示唆されており、彼女は雑誌ではなく文芸書の出版社に転職することになる。

  • 浩弥さんは30歳のニート。かつてはデザイン会社に勤務していたが、長続きせず、その後職を転々するがどれも長続きせず、現在はニート状態。かつての同級生には会いたくないが、タイムカプセルを掘り起こす時が来て止むを得ず小学校へ。そこに隣接する図書室で小町さんに「ダーウィンたちが見た世界」という本を紹介され、自分と境遇が似ているウォレスという生物学者を知り、自分の得意なイラストを褒められたりしたことから、ニートを脱出すことができる。
  • 正雄さんは65歳で定年退職し、現在は無職。そんな自分は今は価値がないという意識が強く、やることがない。そこで囲碁教室に通うが難しそうで、図書室の小町さんに「げんげの蛙」を紹介される。これは詩人の草野心平の詩を載せた本で、彼は死の奥深さを知ることに。小町さんには彼の勤めていた食品会社のお菓子を褒められ、娘からは詩と本の面白さを教えられ、自分の今後の人生の生き方を学ぶ。

司書の小町さゆりさんは、とっても大きな体と顔で一目見たところ皆さん驚くが、その声を聞くと引き込まれてしまう不思議な女性。そんな彼女が、ちょっと話を聞いただけで、まるで占い師のように進むべき方向を示してくれるお話で、本の題名の通り。

ちょっとしたヒントでみんな変わっていく可能性を持っていることを証明してくれるような、素敵な作品でした.

ところで、本作にも出てくる図書館司書ですが、彼ら彼女らの雇用や賃金での苦境の記事が朝日新聞に載っていました。6割が非正規雇用で、低賃金が当たり前。日本の図書館文化はこのような方たちに支えられているという現実があります。自然科学や社会科学の研究者たちも同じで、日本の科学・文化・芸術など、人間に潤いを与える分野に貢献する人たちの低待遇を何とかできないのか。全く余裕のない社会になったものです。

今日はこの辺で。