小野寺史宜「タクジョ!みんなのみち」

小野寺さんの作品「ひと」が気に入って、暫くは小野寺作品に夢中になりそう。今回選んだ作品は「タクジョ!みんなのみち」。

「タクジョ」って何だろうと思っていたら、タクはタクシーでジョは女子。ただ本作では女性タクシードライバーばかりが出てくるわけではなく、男性ドライバーも出てくる連作短編。

東央タクシーに勤務するドライバーや事務職などの社員が各短編で登場する作品で、先ずは29歳の男性ドライバー、姫野さん。姫野さんは一流大学から一流航空会社に就職したものの、仕事や人間関係があわずにタクシードライバーに転職した方。おかげで大学時代からの恋人に見限られて別れてしまった経験がある。彼からすると、彼女は一流大学、一流企業のハンサム青年を求めていたのだと気づく。そんな姫野さんが載せた三人の乗客に魅せられる。新宿から船堀までを学生アルバイトホスト、東大島から井の頭公園まで乗せた三人家族、三鷹から御徒町までの女性ユーチューバーの会話が面白い。姫野さんはハンサム青年ながら、人柄もよさそうでした。

次に登場したのが大学新卒でドライバーになった霜島さん、25歳。ドライバーになって4年目だが、自分はドライバー向きではなかったと悩む日々。そんな霜島が乗せたのが30歳前後の女性。今彼氏と別れてきたと自分から話す方。盛んに女性ドライバーを褒め上げる。そして磯子の自宅まで届け料金精算するときお金もカードもないと来た。部屋に戻ってすぐ持ってくると言った女性に対して、霜島さんは篭脱けに引っかかったと疑いスマホを預かる。女性は約束通り戻ってきて精算完了。人を見る目がないと悟った霜島さんは職変を目指すことを決心する。

永江哲也君は霜島さんや最後に主役として登場する高間夏子さんと同期ながら、事務職として入社した25歳の青年。現在は採用担当として新卒や女性ドライバーの採用を増やそうと頭を絞っている。彼が考えたのは、新卒の説明会で高間夏子を講師にして、タクシードライバーの魅力を語ってもらおうという企画。高間は最初断るが何とか説得して40人の学生を前に講師を務め、何とか説明会は成功するが果たして何人が入社してくれるかまでは語れないのが残念。そんな永江は、同じ課の2年先輩の鬼塚さんが好きで、結婚を申し込むのでした。

川名水江さんは、東央タクシーに6年間務めたが、再婚相手の住む札幌に引っ越し、道央タクシーに勤務して2年が経過する38歳の女性。この日の彼女は生保レディーとドラッグストアーのエリアマネージャーの二人を乗せ、いずれも転職を考えている話が車中で交わされる。その候補としてタクシードライバーについていくつかの質問をされる。自分が東京で離婚し、シングルマザーとして苦労したことを踏まえ、男性にはよく考えてほしいと話す。その日の夜は東京から高間さんともう一人の女性ドライバーが札幌に来て再会し、話が盛り上がる。

道上剛造さんは強面の風貌ながら、実は案外優しい男性ドライバー、57歳。かつては悪い道に入りかけたことがあったが、ある女性と出会い、定職としてタクシードライバーがいいのではと勧められた過去があり、天職とも思っている。タクシードライバーのことを卑下するような言葉を平気で若い人たちに言っている刀根さんには、厳しく注意する。

掉尾を飾るのは高間夏子さん、25歳。彼女の両親も離婚し、高間さんは母親と暮らしていたが今は一人でアパート住まい。タクシードライバーになった動機が、あるストーカー事件。女性客を乗せたタクシーのドライバーには自分の住まいを知られたくないと思い、少し手前で下車。その女性がストーカーに襲われたのだ。もし女性ドライバーだったら、家の前で下車して無事に帰宅できたはず。それを一つの動機として入社。コロナの厳しい時期はあったが、何とか今4年目を迎えて頑張っている。そんな彼女が会社説明会で説明役を務めたことは永江編で記しているが、この編では彼女の家族関係などが記され、彼女がタクシードライバーとしていかに魅力的で、こんなタクシーに乗ってみたいと思わせる。

私もかつては会社で夜遅くなった時、タクシーを利用したことがあったが、やはり夜のタクシーでは女性ドライバーに当ったことがない。昼間では何度かあり、言葉を交わすことがあったが、女性ドライバーの方が安心していられる気がする。勤務形態が変則的で、昼だけではあまり稼げないため、どうしても夜勤務もせざるを得ない場合は、家族との交流もなかなかできない職種でもあり、新卒のタクジョたちがどこまで頑張れるかは未知数だが、是非とも業界活性化のためにも頑張ってほしいものです。

なお、そんな彼女、彼氏たちの楽しい体験話などが聞けて、優れたエンタテイメントでありました。

今日はこの辺で。