大門剛明「この雨が上がる頃」

大門作品六作目となる作品は、全て「雨」がタイトルに着く7編の短編集「この雨が上がる頃」。連作ではなく、すべて独立した物語で、あえて言えば滝川検事という方が、二つの物語で登場するが、一方はほんのちょい役で、話も全く関係ない。いずれの話も最後にどんでん返し的な趣向が凝らされているのが特徴。

1.「雨が上がる頃」は表題作にもなっている物語で、偽装人質監禁の話。弁護士事務所に勤める25歳の沙織の父は弁護士で、そのコネで今の事務所の事務員として働く。彼女は金曜日の帰宅途中にビデオショップによる習慣があり、この雨の夕方も入店。そこに二人組の強盗のような若者が銃を持って押し寄せ、一人の女性客を人質にして立てこもる。沙織はとっさに隠れて気づかれていない様子。二人の要求は、人質の父親に母親がひき逃げで殺されたことから、テレビで自白しろと要求。最終的には人質の父親が自白することになる。しかし、実は人質は沙織であり、ひき逃げ事故も沙織が起こして、父親の指示で事故がなかったことにしていたのだった。

2.「雨のバースデー」の主人公は修斗という人。読者は「修斗は6年B組にいる」という言葉にすっかり騙されることになる、いわば言葉のトリック。すなわち、修斗君は小学6年生で、同じクラスの可愛い女性児童が何者かに誘拐され、金持ちの家庭の修斗君に500万円持って来いと要求する誘拐事件に関わってしまう。母親にも相談して500万円を用意し、犯人の要求通りにそこらじゅうを移動させられ、次第に修斗は犯人像に気づく。犯人は同じ学校の臨時教師で、いわば偽装誘拐。修斗は6年B組の担任で、女子児童のストーカーでもあった。

3.「プロポーズは雨の日に」の主人公、夏帆の母は3年前に自殺し今は父と二人暮らし。母は万引きの疑いをかけられ、プライドの高い母は、それ以降精神を病み自殺したのだ。最近父親の様子がおかしいため、家政婦さんと一緒に父親を探るうちに、恋人ができ、プロポーズするのではないかと予測。父の予定表でその日に約束の場で待機。そこで父親と相手の会話から、母親を冤罪にしたてたのが、その相手の女性だったことがわかる。父親は今でも母親を思っていてくれていた。

4.「密室の雨音」の主人公、菊川由希菜は、フィットネスクラブで若くてかわいい19歳の人気者女性のロッカーから高級腕時計を盗み、自分のロッカーに隠す。隠したはいいが、相手の女性が時計を盗まれたと騒ぎだし、クラブにいた検事の女性が犯人は4人の中にいるとして、ロッカーを調べようと言い出す。由希菜はいろいろ注文を出して抵抗するが、結局ロッカーを調べられることになり、彼女のロッカーから出てくる。その瞬間、盗まれた女性が、盗まれてはいなかったと言い出す。実は、由希菜はその女性が時計店で万引きしたところを目撃しており、彼女のために時計を店に返そうとしていたのだった。

5.「軍艦橋に降る雨」は、現存する田端ふれあい橋、通称軍艦橋をめぐる切ない話。主人公の佐山は、68歳で定年後の余生を過ごす身。友達を作るために将棋クラブに通うが、なかなか気の合う友達はできない。自身が高卒で苦労してきたことから、将棋クラブに通う21歳の青年に10万円を貸すが、その青年が何者かに殺害される。金を貸していたことから容疑者になってしまうが、彼にはその時間、軍艦橋で14歳の少女と話をしていて千円を貸し、明後日返しますという言葉で分かれていた。刑事はなぜその時間に軍艦橋にいたのかをしつこく聞かれるが、習慣だとしか言わない。彼女が約束通り来てくれればアリバイが証明できると思ったが、約束の時間に彼女は来ない。失望していた時、刑事と少女が現れ、アリバイは証明され、しかも少女は車いすに女性を載せてきていた。佐山が毎日軍艦橋に来ていたのは、遠い昔の恋人と約束していた場所だったのだ。この話にはほろっとさせられました。

6.「記憶と雨とニート」の主人公は35歳の自称デイトレーダー、実際はニートのような生活をする男、栗原賢也。彼はある雨の夜、公園で美しい女性に、「私は誰ですか」と問いかけられる。彼女は自分のファーストネームの真希しか覚えていないという。賢也はあえて警察にはいかず、自分の家に来て明日調べようと提案すると彼女はついてくる。彼女は翌日朝食を作ってくれたりして、賢也は彼女の素性探しに協力。そして、彼女が2カ月前に越してきた新婚さんだとわかるが、彼女の記憶は一部戻らない。そして彼女の夫が何者かに殺されるという情報が入る。彼女から声をかけられた夜、新婚夫婦は争っていて、彼女がバットで殴って殺したという筋が出来上がるが、実は殺したのは賢也自身だったのだ。彼女の記憶が戻らないことを利用して、自分は逃げきれると思っていたが、彼女のひたむきさに賢也は自首を決意する。

7.「地検の通り雨」の主人公は谷原正也という検事。彼は贈収賄事件の調査を担当。贈賄側は自供しているが収賄側の嫌疑は否認。焦点は現金百万円を嫌疑の自宅に持っていったかどうか。事件の端緒は匿名電話による告発。その告発電話の声は機械的な細工がしてあり、谷原のところにもかかってくる。谷原はその電話の声に着目し、全て贈賄容疑者の仕業と見抜く。贈賄容疑者は医師であった県議の誤診で20年前に娘を亡くしており、毒饅頭を持っていき、嫌疑を殺そうとしていた。

いずれの短編も味わい深く読ませていただきました。

今日はこの辺で。