吉田修一「路」

私事ですが、60歳以降身体に病魔がはびこり、これでもかこれでもかと襲い掛かっています。直近では手の腱鞘炎が現れ、マウスを操作したり、キーを打ち込んだりすると痛みが激しくなります。専門医によると安静が第一とのことで、できるだけパソコン操作等、指を使う作業を控えている次第。今回のブログも相当前に読んだ作品です。

吉田修一さんは、「パーク・ライフ」で芥川賞を受賞している通り、最初は純文学路線を通していましたが、その後は大衆文学にも範囲を広げて「悪人」など映画化される映画も多くなりました。本作「路」は台湾に日本の新幹線を造りこむ話を軸に、そこに展開する人間ドラマを描く作品。

数年前台湾旅行に行った際に、台北の空港に着いて、その後はバスで南下して高雄まで行き、帰りは台湾新幹線台北に戻った経験があるので、親近感も持ちました。

その台湾新幹線は、国際競争の結果独仏連合が優位となったものの、台湾政府の思惑もあり、車両システムは日本が請け負うことになる。その建設にあたって日本の商社から現地事務所に送り込まれた多田春香さんと、春香さんが学生時代に台湾旅行で知り合った現地学生のエリックこと陳さんの再会と交流が一つの大きな筋、日本統治時代に台湾で生まれ育ち、敗戦で日本に引き上げ、大手ゼネコンで役員まで勤め上げて今は一人暮らしの葉山勝一郎と台湾時代の級友の中野さんこと劉さんの再会までの筋、この二つの筋を主流にして、これに絡むエピソードをたくさん盛り込み、新幹線受注から完成までの7年間の出来事を盛り込みます。

春香と陳さんは、お互いに好意を持ちながら、結局春香は新幹線開業後も台湾に残り、陳さんは日本の建築会社で働くという選択をし、結局結ばれることはない。勝一郎さんは、かつて劉さんに対して二等国民呼ばわりした苦い過去があり、どうしても劉さんに対して引け目がある身だが、劉さんは「過去のこと」として勝一郎を許し、最後には台湾で最期の時を迎えることを選ぶ。

7年間とは言うものの、長編叙事詩的な作品で、いろいろと勉強させていただきました。

今日はこの辺で。