双葉文庫版「警察の灯」

4名の推理小説作家の警察関連小説を集めた短編集「刑事の灯」読了。

実は私は、4名の作家をどなたも知らなかったのですが、たまたま何かの情報で藤崎翔氏の名前を見たことから、選んだ文庫本。4作いずれも警察官を主人公にした作品で、個性的な刑事が登場する、典型的な刑事小説。

麻見和史「星の傷跡」は、警視庁本所警察署の黒星達成刑事と白石雪乃刑事の男女コンビのお話。管内で殺人事件が発生し、死体には*(アスタリスク)に似た傷跡が三か所残され、更には「死体を傷つけるのが好き」といったメモが残されていたことから、猟奇殺人の線が浮かぶが、黒星・雪乃コンビが突き止めたのは、とある病院の関係者。事件の裏には病院の看板外科医と、彼を脅迫していた被害者のゴロツキ、そして医師の手術を待つ患者の夫の存在があった。

「黒星」という名前の通り暗い感じの刑事と、何処までも明るく積極的な雪乃刑事のコンビが魅力でした。

沢村鐵「道案内」の主人公は、小野瀬遥という女性刑事。彼女が追うのは管内品川署で発生した奇妙な誘拐事件。誘拐されたのはインド人のIT会社社長を父に持つ9歳の娘。父親は、警察の捜査に、インド政府からも捜査が遅いとクレームがつくほどの実力経済人。この事件に娘の母親が口を閉ざして現れない。遥は、彼女に備わった超能力のような亡くなった「おばあちゃんとの会話」から、建設会社に目を付け、父親のハラスメントから逃れようとして画策した狂言誘拐の事実が明らかになる。道案内してくれるのが、おばあちゃんということでした。但し、安易に超能力のようなものが出てくる展開には疑問が残るのですが。

藤崎翔「読心刑事・神尾留美」は、正に超能力小説。捜査一課の根津刑事は、神尾瑠美という女性刑事がいる班に配属されるが、この班員は至ってのんびり。それもそのはず、瑠美は即座に人の心を読み取れる超能力があり、容疑者にあがった人物が犯人かどうかを判別できてしまう。こんな刑事がいたら、冤罪は絶対に起こらないのですが、ちょっとずるい設定。それでも、犯人の心は読み取れても、証拠がなければ逮捕できないのが警察。そこで、犯人に自供させようと、殺された夫の幽霊になって脅かそうといった苦肉の策まで実行するという、いわば喜劇的な話。読心術という言葉があり、そこそこの能力を持つ人はいるのでしょうが、ちょっと安易にすぎないか。

吉川英梨「ファーストレディの黒子」は、首相夫人がホテルで腹上死したというスキャンダル事件の後始末を命じられた公安警察の刑事古池慎一が、同じ公安で同期の広田達也と二人で現場に赴き、真相解明とその後始末を、丁々発止の会話で収めていく様子を描く。古池は当初は出世頭だったが、今では広田が上席の立場。しかし、古池は広田をあくまで同期のような形で接し、お互い反発しながらの会話が続く。首相及び首相夫人は誰をモデルにして描いたのかを想像しながら読むのも楽しい。

こうした刑事もの4編でしたが、短編でもあり、どれだけ印象に残るのか?結局奇想天外な読心術の瑠美刑事かもしれない。

今日はこの辺で。