伊岡瞬「本性」

伊岡瞬作品に熱中している現在、集中的に読んでいるのであるが、4作目に出会ったのが「本性」という作品。次の章がすぐに読みたくなるという作品にはこれまでも出会っているが、本作もそんな一作で、最後の第8賞以外は非常に引き込まれる作品。最後の章でがっくりする作品も多いのであるが、本作でも若干の拍子抜けがあったが、これもやむを得ないのか?

第一章から第4章までは、何かの事件に関係したであろう4名の名前を冠した話だが、その事件がどんな事件なのかは明かされない。一人目は、今は私立高校の教師をしている

40歳の梅田尚之がサトウミサキという女にお見合いパーティーで出会い、ミサキにぞっこんとなり翻弄される話。二人目は小田切琢磨というファミレスのアルバイト店員。仕事が長続きせず、今はなかなか正社員の口にありつけずアルバイト店員の身。そんな琢磨にミサキが近づき、これまた翻弄されることに。尚之と同じく琢磨も念書のようなものにサインさせられるが、その内容は明かされない。三人目は青木繁子という82歳のご老人。繁子さんは一人住まいで、後見人のような孫の嫁の茜が財産狙いで出入りしているが、そこにもミサキが出入りし、繁子のお気に入りとなっている。その繁子は、実は死んだはずの息子、敦が女装して成りすましているのだが、ミサキはそれを見抜いており、ミサキの計画は着々と進むが、その狙い自体は明かされない。四人目の小谷沙帆里は、結婚している公務員だが、かつて東京に住んでおり、中学は東京だった。今は福島の田舎町で退屈な公務員生活だが、夫は吝嗇家でその生活に我慢できず、夫を睡眠薬で殺すほどの悪。否かゆえに事件性なしで保険金待ちだが、そこにミサキが現れ、その後行くえ不明となる。

4人の、どちらかというとどうしようもないような人間が出てきた後、東京の所轄署の刑事二人、安井隆二と宮下真人がとある殺人放火事件を追っていく中で、4人が絡んだ過去のいじめ事件を復讐劇にせまっていくことに。安井隆二も、いじめで自殺未遂して半身不随となった少年の母親からいじめの捜査を依頼されたにもかかわらず、上層部の判断で捜査せずに過ごした張本人であり、かつ母親と関係も持ったという傷があり、ミサキのターゲットでもあった。

最終章でミサキの正体を安井が暴く場面が描かれるが、ミサキの神秘性があっけなくなくなっていくさまが、若干物足りないと思った次第。ミサキは悲劇の一家のヒーローのようなもので、警察とは一線を画すが、安井がミサキの闇に引きずり込まれる予感を感じさせる最後の1行が、ミサキの神秘性を辛うじて守ったと言えば言えなくもないのだが。

420Pの長編ながら、ぐいぐい引き込まれる展開に久しぶりに興奮しました。

今日はこの辺で。