瀬尾まいこ「その扉をたたく音」

瀬尾作品3作目は「その扉をたたく音」。

主人公の俺(=宮地)は29歳で、一人暮らしの無職。生活費は裕福な父親から毎月20万円仕送りを受け暮らす贅沢な境遇。毎日ギターを弾いて作曲もしているが、稼いでいるわけではない。30歳まではギターでなんとか暮らしていける目標を持つが、実際にはそれは叶いそうもなく、焦りもある。ある時高齢者介護施設でボランティアに赴き、ギターを弾くことになるが、老人たちの反応は悪い。たまたま施設の介護士の渡部君がサックス演奏をして、その音に感動。もう一度渡部君の演奏を聴きたいと、施設に毎週通い始める。そんな中、入居者の水木ばあさんから声をかけられ、ぼんくらと言われながら買い物を頼まれたり、本庄さんという老人からウクレレを教えてくれと頼まれたりして、それに応える形で施設に通い、渡部君と二人で音楽でやっていこうなどと誘うが、渡部君は馬耳東風。俺は渡部君や水木ばあさん、本庄さんなどとの交流、そして別れ(水木ばあさんの死、本庄さんの認知症の悪化)を通して、自分の道、即ち職に就くことを決意していくというストーリー。

瀬尾さんの人間物語には、原則悪人は登場せず、主人公の周りには善意が満ちているのが特徴。「幸福な食卓」の私も、本作の俺も、人の死にショックを受けて、暫く立ち直れないような状態になるものの、周りの人は優しく善意に富み、それによって立ち直っていくというところは共通した展開でした。

今日はこの辺で。