鏑木蓮「見えない轍」

戦後の推理小説作家というと、古くは江戸川乱歩横溝正史松本清張などがおり、現代では直木賞を獲得している東野圭吾宮部みゆき大沢在昌など、多士済々の才能豊かな人がいるのですが、読んだ作家はまだまだまず少ない。それをつくづく感じるのは、最近集中的に読んだ中山千里、伊岡瞬、下村敦史の存在を知ってから。更にたくさんの作家がいることを思うと、これからの読書人生が楽しみでもあります。

さて、今回初めて読んだのが鏑木蓮作品「見えない轍」。副題として「心療内科医本宮慶太郎の事件カルテ」とあり、本宮慶太郎シリーズがまだあるのかと思いきや、どうもこれが単作のようで、2018年に発行されているので、これからシリーズ化されるかもしれない感も受ける。

本宮慶太郎は関西の研究学園都市といわれる街に開業している心療内科のクリニック医師。開業したものの、なかなか患者が来ない状態で相当に暇であり、焦ってもいます。そんなクリニックに、高校生が患者として来診し、電車から通学時にいつも見ていた女性が、自殺したことを知ってから食事ができなくなる症状が出てしまう。その理由は、彼女が自殺した朝、同じように電車から彼女を見て、彼女がガッツポーズをして挨拶していたことから、彼女は自殺ではないと思い込み、食事がのどを通らなくなったとのこと。患者の症状をなくすことがモットーの本宮は、亡くなった女性の死因を突き止めるため、お得意の探偵根性を出して動き出す。そして彼女が勤務していた街の小さなスーパーでの仕事関係に原因があることを突き止めていくというストーリー。本宮医師は、お得意の人間の心理を読む能力を発揮して、警察が自殺と判断しているところを、事件と確信して、裏に隠されたスーパーの「賞味期限切れ」というキーワードを探り出して、意外な人物を特定することになる。誰が犯人だろうという、推理小説の王道を行くストーリー展開で、最後まで犯人が誰か、読者もわからない筋書きで、ついつい先を読みたくなる内容で、楽しめる作品。ただ、34歳の「美味しいお弁当を作る」という夢を持った女性を死なせてしまうのは残念でした。彼女と上司の女性が、最高に美味しい弁当をつくるという成功物語も読みたい気が起こりました。

それはともかく、しばらくは鏑木蓮作品を集中的に読む気も出てきました。

今日はこの辺で。