直近の直木賞を「ともぐい」で受賞した河崎さん。北海道在住ということで、桜木紫乃さんのように北海道を舞台にした作品が多いようですが、「肉弾」もその一つ。しかも「ともぐい」と同じような人間と動物との闘いや関係をテーマとしているところは興味深く、「ともぐい」は未読ながら、河崎さんのライフワーク的なテーマのような作品かも。
本作「肉弾」の主人公は沢貴美也という20歳で、大学中退の引きこもり青年。父親の龍一郎は建設会社のやり手経営者。私生活ではバツ3で、今は息子のキミヤと二人暮らし。その父親はキミヤの引きこもりを解消すべく、自分の趣味である狩猟を息子にもやらせるため猟銃免許を取らせ、北海道に鹿狩りに行くことに。キミヤは全てに消極的で、その原因は高校生時代に陸上部で駅伝選手に選抜されたものの、タスキをつなぐことなく転倒して気を失ってしまった失敗を未だに引きずっているから。
舞台は北海道の道東方面で最初は鹿狩りをする予定が、父親が禁漁区に入って熊を狙うという暴挙に出る。キミヤは反対したものの、父親が断念するはずもなく随行することに。そして大きな熊に遭遇し、父親はその餌食となり、キミヤは必死に逃げる。何故か熊に襲われた場面に、犬の集団が現れ、キミヤは逃走に成功したのだ。
キミヤは再びその犬たちに遭遇し、一番大きなリーダー格の犬と格闘し勝利。キミヤは何故か勇気あるリーダーとなり犬たちを連れて、父親が襲われた場所に帰り、熊との対決をとなる。
本作の面白いところは、犬たちの境遇や熊の境遇、観光が鹿や熊の居場所をなくしている現実も語られ、人間の行いが、いかに動物の生存を脅かしているかを説明的に盛り込んでいる点。特にペットの犬が飼い主のエゴで自然界に放たれてしまっている場面などが描かれ、北海道の大自然の中でも河崎さんが警鐘を鳴らしている様が思い浮かぶ。
突然の犬との闘いが、引きこもりのキミヤを覚醒させるという非現実的な話ではあるものの、キミヤが肉弾となって戦う場面は迫力がありました。
今日はこの辺で。