阿津川辰海氏作品に接するのは初めてで、本作「録音された誘拐」は、昨年の「このミス」の3位になったとのことで、本格推理427ページを超特急で読み進めました。
阿津川辰海作品の中では、大野糺・山口美々香・望月公彦の大野探偵事務所が、難事件に挑むシリーズの最新作。
大野糺が何者かに誘拐され、資産家でもある大野家に警察が乗り込み、美々香がその中に加わる。犯人はムラカミと自称するが、すぐに大野はかつて探偵であった巻島迅であることが判明する。糺はムラカミに監禁され、拷問を受ける一方、得意の会話術でムラカミと一種の取引のような形で糺自身が大野家に待機する美々香と謎の連絡を取りながら事件が展開する。糺はムラカミとの交渉などから、実際にこの誘拐事件を陰で操っている真犯人までも割り出す。一方、大野家に陣取った面々は糺の母、叔父、妹、弟、そして妹のフィアンセで、パーティー開催中の事件発生となる。大野家は15年前にも誘拐事件の被害にあった経験があり、その事件は臨家に住む野田島家の姉弟が大野家の兄妹に間違えられて誘拐された事件として野田島家にとっては悲惨な結果を招くことになる事件となった。しかし、この事件は、実は野田島華という誘拐された子供の母親の狂言誘拐とであったことが明かされる。誘拐された子供のうち姉は監禁中に病死、弟は車から放り出されて行方不明のまま姿を消したという過去があったことが明かされる。
一方、大野事務所の望月は、本作の事件とは関係のない、美々香と実家の父との確執問題の解決に出向くという、何か寄り道的な話が出てくるところは違和感がある。
美々香は糺とのテレパシーのようなやり取りを通して糺の居場所を特定し、警察と一緒に大野家の別荘に向かい、ムラカミには逃げられたものの、糺と妹の早紀は無事に救出され、15年前の事件で行方不明となった野田島家の成長した子供が真犯人として捕らえられる。
本作の真骨頂は、作者が所々に張り巡らした言葉によるヒント。実は美々香は自慢の耳が突発性難聴で使うことがほぼできず、その様子が会話の節々に隠されている。それでも糺が示したヒントを確実に解して、事件解決に寄与するところ。最終盤でその様子がご丁寧に解説されており、読み返してみると確かにその通りに、美々香の耳が不自由な様子が垣間見える。
推理小説によくあるパターンで、途中までは面白くて早く先が読みたいという気持ちがはやるのですが、最後の落ちがやはり期待外れ。行方不明の子供が川を流され、栃木の田舎で助け出され、児童養護施設で育つという設定だが、いくら何でも車から放り出されて行方不明になったとしても、大規模な捜索が行われ、近隣住民への聞き込みや児童養護施設への問い合わせで判明するのは常識。透明人間になって生きることはありえない。
その他いくつかの???と思われるところもありましたが、楽しく読ませていただきました。
今日はこの辺で。