伊岡瞬「瑠璃の雫」

伊岡瞬の2008年の作品「瑠璃の雫」読了。何となく東野圭吾の「白夜行」を思わせる、過去と現在を織り交ぜた、奥の深い作品。

小学6年生の杉原美緒が、母の従妹にあたる吉岡薫さんの紹介で、元検事の永瀬丈太郎と出会い、彼との親交を深めて救われるという大筋。

美緒は母と弟充の三人暮らしだが、母親はアル中で時々入院するような状態。そうなった理由は、生まれたばかりの弟、穣が充のいたずらで亡くなってしまい、父親は家を出て行ったという家庭環境のため。母親代わりとなってくれた薫さんは面倒見がよくて、美緒と充の面倒を見てくれる。その薫さんはかつて松本に住んでいた時に、丈太郎の一人娘、瑠璃が誘拐されたところを同じ幼稚園児の時に目撃したという縁で、丈太郎と親交があり、今は一人暮らしの丈太郎の家の掃除などをする代わりに、美緒と充の相手をしてくれるような仲となる。

美緒には記憶の中で、弟の穣が死んだ時の状況が夢に出てきて、実は穣を殺したのは充ではなくほかの人間ではないかとの疑いを持つようになる。

一方で第二章では、丈太郎の松本での検事時代に手掛けた事件をきっかけに、瑠璃を愉快され、事件解決していないという話が語られる。丈太郎は、贈収賄事件の被疑者関係者が犯人と目星を付けるが、捜査は難航。丈太郎は東京への転勤が決まり、妻は瑠璃の事件にこだわって松本に残る生活が始まる。妻からは手紙で近況報告があるが、その中で贈収賄事件に近い人物との交流が書かれていたことから、丈太郎は真相を突き止めに松本の当人のところに向かい、真相を知る。但し、その場面ではその真相は書かれていない。

第三章に入って、美緒も高校を卒業して社会人となり、丈太郎との親交も続いていたが、丈太郎の住まいが何者かに放火され、丈太郎は亡くなる。丈太郎は美緒に手紙を残しており、それを頼りに瑠璃の誘拐事件の真相に迫っていく。

美緒は穣が死んだ理由を、母親や父親が「充が殺した」と言っていたことを長い間信じていて、充をみちずれに死のうと思い、川にはいるが美緒は助かる。但し、充の消息は途切れた形で一時中断し、第三章で、充も助かり、丈太郎の尽力で施設で暮らしており、美緒が穣を殺した真犯人が父親であることを突き止めたときに充が現れる場面は、決して唐突ではなく、読者に「充はどうしたんだろう」と余韻を持たせる効果がある。

瑠璃を誘拐した真犯人と、その遺体を遺棄した今は画壇の重鎮となった男との対決が焦点になるが、丈太郎は検事ではあるが、その真相を妻には告げずに、妻は亡くなっている。

文庫で490P近くの長編ながら、ストーリーには筋が通っており、ぐいぐい引き込まれる作品でありました。

今日はこの辺で。