雫井脩介「引き抜き屋」

雫井脩介氏の作品は久しぶりだが、「火の粉」や「犯人に告ぐ」などの推理小説が中心と思っていましたが、本作「引き抜き屋 鹿子小穂の冒険」のような、ビジネス小説があるとは知りませんでした。確かにサスペンス的な要素が無きにしもあらずですが、軽妙な作品なので、雫井氏の新分野ではないかと思われます。本作は2016年~2017年にかけてWEB雑誌に連載され、2018年に単行本化されたもので、既に第二作目も発刊されているので、次のターゲットとなります。

本作は3篇の連作短編となっていますが、引き抜き屋の主人公は、鹿子小穂という30歳まじかの女性。

第一話の「引き抜き屋の代理」は、アウトドア製品メーカーの社長の娘である小穂さんが、兄が若くして亡くなったことから、父親の会社を継ぐために入社。それなりの実績をあげはしたが、社長の娘として帝王学を学ばせるために若くして取締役になったはいいが、ヘッドハンティングで常務となっている上司と衝突し、父親は他社での修行をさせることを決断。たまたま父親の旧知の仲でもある並木というヘッドハンティング会社の代表に会って、並木が別商談のため小穂を代わりにクライアントと候補者の縁談の立ち合いの代理になり、持ち前の積極さでその面談を成功させた話、そしてこれを機に小穂さんがヘッドハンティング会社に入社することになる。

第二話の「引き抜き屋の微笑」は、小穂さんの最初の案件。京都でホテル事業に成功している会社が東京に進出し、銀座のホテルは成功しているが、今後の都内戦略を成功させるため、不動産やマーケティングに精通している人材を見つけていて、並木他二社に人材紹介を依頼。ホテル社長は3名の候補者を独自に見つけ出し、第一候補から順に説得してほしいとの依頼となる。並木は現役の料理店社長の説得を2カ月かけて行うことに。小穂は毎日そのお店に通い、絶対に不可能と思われた人材確保に成功するという話。但し、小穂の功績というよりも、並木のバックアップがあってのもので、まだまだ小穂さんは主役を張れていない。

第三話の「引き抜き屋の冒険」は、並木と共同経営者でもある女性ヘッドハンター、花緒里に誘われて、銀座の高級クラブに赴き、そこでホステスをやりながら人脈やクライアントを作っていくことを教えられる小穂さん。そのクラブで商社マンから、資本提携したスポーツ用品店の社長になる人材を依頼され、めぼしい人間を2名に絞って交渉していたが、いずれも最初は感触がよかったが、結局は断られる。依頼された社長のやるべき業務がリストラだということを小穂は見落としていたことを恥じる。結局はコストカッターでありながら、人情家でもある人材がまじかにいて、彼を紹介して最初の大きな仕事が完結しそうなところで完。

小穂さんの今後の活躍を「引き抜き屋2」でお目にかかろうと思います。

今日はこの辺で。