映画「あのこと」

新宿ピカデリーにてフランス映画「あのこと」鑑賞。「あのこと」という奇抜なタイトルを見ると、何のことやら?と思いますが、内容は極めてシリアス。人間ドラマではあるのですが、シリアス度は、一級のサスペンス映画と言ってもいい緊迫感がある作品。

アメリカでは連邦最高裁が妊娠中絶を違法とする判決を下し、この判決が中間選挙の結果に大きく反映されて、民主党は改選前に比べて上院が1議席増、下院も大敗とはならなかったとみられています。この映画の舞台は1960年代初頭のフランス。当時のフランスも、妊娠中絶手術は違法とされた時代。主人公のアンヌは、成績優秀で、将来は教師を志望している女学生。その彼女が、たった一度のセックスで妊娠してしまい、誰にも告白できず、一人悩んで医師に懇願するが、刑事罰のある法律で皆が拒否。悩んだ末に何人かに告白し中絶の手段を探るが、誰も協力できない。そこで彼女が選ぶのが、本を読んで得た方法で自ら性器に金属を入れて中絶する方法。その場面も赤裸々に映像に流れる。しかしこれも失敗。どんどん時が過ぎてゆき勉強もままならず、成績も落ちる一方。そんなとき、男友達の紹介で闇の中絶をしている女性を紹介され、やっと中絶手術を受けるが、こても失敗。闇の中絶女性に駆け込んで、命の保障はできないことを条件に再度の手術。この辺のアンヌの切羽詰まった心情を女優さんが見事に表現している。

アメリカの中絶禁止の最高裁判決以来、女性の生む権利・生まない権利をめぐる議論が盛り上がっていますが、望まない妊娠への女性の権利は、やはり尊重されるべきものかと私自身は考えます。

2021年のベネチア映画祭金獅子賞を受賞した本作ですが、十分に受賞の価値のある、緊迫度満点の作品でありました。

今日はこの辺で。