柚月裕子「月下のサクラ」

「朽ちないサクラ」に続く、米崎県警の森口泉を主人公とした推理小説「月下のサクラ」読了。前作では、米崎県警の刑事ではなく、広報課員だった泉だが、前回事件で親友が殺されたことを契機に、今回は刑事になる試験の合格し、駐在所勤務を経て捜査支援分析センターに配属され、県警本部の金庫から約1億円が紛失した事件を追う姿を描く。

センターへの配属は、面接官でもあった黒瀬仁人警部が彼女の記憶力に目を付け採用されるのだが、周りの仲間からは白い目で見られる。しかし、彼女の才能によって事件の犯人に近づき、黒瀬警部の推理から、とんでもない犯人像が浮かび上がり、黒瀬藩の仲間は、黒瀬が謹慎処分を受けた後も、彼の推理に基づき犯人に迫っていく。そして、その犯人はとんでもない人間だった。

捜査支援分析センターは、主に防犯カメラの映像から犯人の足跡を追い、犯人を特定していくのが業務。しかし、黒瀬はやはり現場主義で、張り込みも行う。ここで疑問に思うのが、捜査一課も張り込みしているにもかかわらず、その張り込みの姿が見えないこと。姿とは、その成果がないということ。被疑者が外出しているにもかかわらず、追っているのは黒瀬藩のみ。捜査一課も当然追っていなければおかしいが、その辺の描写がなく不自然さを与える。更には1億円盗難事件の犯人の動機がいまいち説得力がない。警察本部の中枢で、正々堂々と1億円が盗まれてしまう突拍子な筋書きは、残念ながら柚月の作品らしくない。人間、追い詰められればなんでもしてしまうという本性を考えたとしても、いずれはどう考えたも露見することは明らか。ただし、警視庁の公安が犯人の下で実行犯として金を盗んだ男を殺してしまう筋書きはありかもしれない。警察組織の大幹部が不祥事を起こすことの重大さは、先の安倍元首相の銃撃事件で、警察庁長官奈良県警本部長が退職に追い込まれたのを考えても、上層部の責任隠しとしての常とう手段で、大いにありうること。

本作で、前作の泉の親友が殺された事件が解決するかと思いきや、その話はほとんど手てこず、次作まで持ち越しのようです。森口泉警部の今回の死をかけた最後の奮闘があったが、危うく殺される危機的状況の中、間一髪黒瀬班の登場で次につながりました。

今日はこの辺で。